俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました


部屋の清掃は二人一組だ。

部屋の清掃を終えると、シーツ、枕カバー、浴衣などをクリーニングに出すために一カ所に集める。真っ白なシーツを大きな風呂敷代わりにし、丸くひとまとめにする。
今日は大部屋を担当しているので、カートに乗りきらない。


「クリーニング溢れたので、一度リネン室に持って行っちゃいますね」

「お願い」


自分より大きな塊をサンタクロースのように肩に担ぐと、階段を駆け下りた。部屋の位置によっては、カートとエレベーターを使うより階段の方が速い。


「あっ美夜ちゃん、大変よ。美才治(みさいじ)さんが到着なさってるみたいなの!」


裏口へと向かう通路を早足で進んでいると、慌てた様子の女将とすれ違った。


「えっもう?! メインロビーでお待ちですかね?」


まだ10時。予定より早い。お出迎えにいかなくてはと慌てると、女将は「違うのよ~」と嘆いた。


「てっきり秘書と運転手付きのリムジンでいらっしゃると思ったのに、いつの間にか一人でお忍びで来てたのよ!
受付の子が言うには、館内の様子を知りたいからって、30分前から徘徊してらっしゃるみたいで、今どこにいるのかわからないの。美夜ちゃんはそれを置いたら急いで探してくれる?!」


(徘徊してらっしゃる……)


言葉のチョイスに、女将のパニックぶりが伺い知れた。


「ええと、スーツですかね」

「ええ、グレーのスリーピース。背が高くて目立つ容姿だから見ればすぐ分かるって……」

「わかりました」

「わたしは調理場行ってくるわ! 料理長に知らせておかないと……!」


女将が和服を翻し小走りになる。

旅館でスーツの人は珍しいから、なんとか探せるかもしれない。
そういえば夕礼のあと、みんなはMISAIJI(ミサイジ)グループの御曹司を検索して盛り上がっていた。

仕事があったから仲間に加われなかったが、事前に顔くらいは確認しておくべきだったと反省する。

まずはこの洗い物をリネン室に放らなければ……

塊を肩に担ぎ直し、勢いよく向きを変えると、正面から歩いてきた人にぶつかった。
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