俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「音夜は、わたしの気の強いところを気に入ってくれてたの?」
「全部だよ。ぜーんぶ。
商談が下手くそで、バカ正直に言わなくて良いことまで言って失敗してさ、俺に契約取られて、悔しくて悶えてるところとか、可愛かったよ」
「っもう!」
背中に回していた手で、ぎゅうと背中をつねってやった。音夜の背中は引き締まっていて、ほとんど摘まめなかったのだが。
「いて、あはは」
「若気の至りなの!」
「嘘でしょ。そのセリフ使っちゃう? 未だに四年前の俺より年下じゃないか。腹が立つなぁ」
「ひゃあ!」
おしりをつねられて飛び上がる。
「もーセクハラ!」
「はは」
戯れていると、廊下から声がしてぎくりとする。
「音夜さん、こちらにいらっしゃるんですか?」
綾香の声だった。
しまった。
二人で身を縮こませる。
ついつい声が大きくなっていたようだ。
誤魔化さないとと思ったときには、扉が開いてしまった。
「音夜さ……」
笑顔で部屋に入ってきた綾香の顔が、一瞬にして引き攣る。
慌てて離れたが、見られてしまったかも。
ぎっと睨まれたので、俯いて顔を隠した。例え見られたとしてもシラをきり通そう。
「二人で何をしてらっしゃったの?」
「掃除ですよ」
音夜がしらっと答えると、綾香は「うそです!」と金切り声を上げた。
「抱き合ってました!!」
「気のせいじゃないですか」
音夜は美夜の背中に手を添え、部屋を出ようと促した。話が通じないのなら、話し合う必要はない。逃げたほうが穏便なこともある。
綾香の視線が突き刺さる。敵視されているのが伝わってきた。初めて見たときには清楚と感じた瞳が、血走ってギラついていた。嫉妬に滲んでいる。
やはり抱き合っていたのは見られてしまったようだ。
綾香の視線は探るように頭の天辺から足元までを何往復もした。
彼女と視線を合わせないように反対側を見るようにした。
「次の仕事がありますので、失礼」
とりあえず会釈だけはしておこうと、歩きながら頭を下げた。綾香の横を通り過ぎようとしたとき、腕を掴まれる。
「待ちなさい!」
後ろに乱暴に引かれ、よろけた。