俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「鈴堂さん、何をしているんです。彼女には仕事を教わっていただけです……鈴堂さん!?」


綾香は音夜の言い分など聞かずに飛びかかってきた。


「え? きゃあ!」


どんと胸を押されて、畳に尻もちをつく。


「あなた……あなた手嶋美夜じゃない! こんなところまで音夜さんを追ってくるなんて、なんて身の程知らずの女なの!」


(え?)


綾香は、そっくりそのまま返せそうなセリフを吐いた。それに、なぜ名前を知っているのだろう。以前より面識があるかのような物言いだ。

仕事関係で会ったことがあった?


「せっかく消えたと思ったのに、なんでまた音夜さんの側に居るの!? 信じられないっっ」

「わたしをご存じでしたか……? 以前お会いしたことがありましたでしょうか」

「わたしがあなたみたいな一般人と会うわけないでしょ。音夜さんに媚びて付き纏って、ほんと卑しいったら」


汚いものをみるような視線と物言いに、片眉を顰める。

音夜に付き纏ったことなど一度も無い。何のことをいっているのだろう。人違いということもあるだろうか。しかし、彼女はフルネームで美夜の名前を口にした。


「ここに来たときから、どうも見たことあると思ったのよね。随分と見た目がかわったけど、今度は清楚なフリをでもしているのかしら」


(やっぱり、わたしのことみたいだ)


見た目のことを言っているのなら、美夜が外見を派手にしていたのは、前職の不動産屋、プロパティーで働いていたときだ。

確かにそのころ、音夜とは毎週のように会ってはいたが、あくまでも仕事関係でだけだ。


「音夜さん、もしかしてこの子に無理矢理抱きつかれていたんじゃありません?!」

「鈴堂さん」


音夜が窘めるが、その声は届いていない。


「この女、本当尻軽なんですよ。音夜さんに相応しくないわ。同じ空気をすっているのも疎ましい。早く出て行ってくださらない」


なんとも自分勝手な言い分にあっけに取られた。
自分で呼び戻して押し倒しておいて、と不満が募る。


(尻軽?!)


身に覚えのない侮辱に、唇を噛む。
四年前を思いだした。
あの時も、自分の意見など聞いてもらえず、飲み込んだのだ。


「何をおっしゃっているんです?」


音夜の口調がきつくなる。怒鳴りたいのを抑えているようだ。
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