俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「音夜さんはご存じないのね。
可哀想に。この女、前の仕事で客と寝て仕事をとっていましたのよ。それに社内不倫までして、本当に穢らわしい。どうせ音夜さんに近づくのも財産目当てです。相手にしない方が宜しいですよ」


「なん、で……」


なんでこの人が、プロパティーでの仕事のことを知っているのだろう。

鈴堂の会社にも不利益があった?
だから知っている?

それとも、全く関係の無い人達の耳に届くほど、自分の名前が一人歩きしてしまっているのかと、ブルリと身を震わせた。


「――――なぜ、あなたがその話を?」


音夜も目を見張った。


「駅前の再開発なんて大事業です。
音夜さんが関わっていたんだし、知っていて当然ですわ。それに、あの街では有名な話よ。ね、手嶋美夜さん?」


――――嘘だ。


嘘だと叫びたくても出来なくて、ただ拳を握りしめた。

あの時も、嘘なのだと言えなかった。
自分は悪くないと言えたのなんて、最初だけだ。
誰にも信じて貰えていないとわかったときの絶望が、深く深く、傷として残っていた。


なんの確証もない噂に打ちのめされて、それでも次に進まなくちゃって思っていたところの妊娠発覚。

つわりの辛さと、どうやって生きればいいのかわからない未来への不安で、泣きながら過ごした日々が多かった。

あの時は色々な事が重なって、精神的につらかった。



星林亭(せいりんてい)になんとか就職できて、生活がやっと軌道に乗ってきた今でこそ事情は話せたが、当時は両親にも申し訳なくて相談も出来なかった。




音夜も、あの街に居たのなら、流れ続ける噂を耳にしていたのかな。


恥ずかしい。
情けない。

こんな罵倒される所など、見られたくなかった。



――――噂のあるわたしは、音夜の価値を落としてしまう。

やっぱり、わたしじゃ釣り合わない。



ナオに貰った勇気が、
音夜が注いでくれた愛情が、みるみる縮んでゆく。


ああ、やっぱり好きだけじゃだめなのかも。
美夜にできたのは、せめてみっともなく泣かないように、虚勢をはるだけだった。

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