俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
宿泊客の朝食が終わり、片付けをしていると、そこにも綾香は現れた。

みんなが仕事をしているのにも関わらず、居座って毒を吐き続ける。



「子供がいるなんてびっくりだわ。あなたの子、契約破棄になった地主の子供でしょう。あそこの一族は遺伝で赤毛ぎみだったのよ。ぼうやの髪色も明るいわ」

「違います。滅多なこと言わないでくださいっ」


美夜は集めた小皿をお盆に乗せ終わると、耐えきれなくて声を上げた。思わず力が入ってしまったガラスがガチャンと音を立てる。

夜尋を侮辱されるのは許せない。どんなに謝られても、絶対に許すことはできない。一生、その言葉を呪いつづけるだろう。


音夜もいるのに。
これを聞いてどう感じるだろう。
今、どんな顔をしているかな。

背中に視線を感じたが、振り返って確かめることは出来なかった。



「じゃあ誰の子供なの? 色んな男と関係を持ちすぎて、父親がわからないんでしょ」


朝食の会場となる広間には、すでにお客様はいないとはいえ、こんなところで話す内容ではない。


「……わたしは、不特定多数と関係を持ったことなどありません」


唸るように低く告げると、声が震えた。

音夜の子供だ。それは間違いない。けれどそれを言ってしまうと、音夜の評価を下げてしまう。


(悔しい……!!)



「歴史有る旅館に、あなたのような前科がある人が居ては旅館も困るでしょう」

「っぜ……!!」


(前科?!)


重ね重ねなんて失礼な人だ。
怒りをぶつけてしまえ、もうどうにでもなれとカッとなったとき、音夜の静かな声が遮った。



「鈴堂さん、いらっしゃったお客様に気持ちよく過ごしてもらうには、従業員も気持ちよく仕事をしなくてはなりません。あまり、公然でする話ではないでしょう。
鈴堂さんのご意見はわたしが伺いますので、こういった場で口にするのはやめてください」

「あら、客であるわたしが、気持ちよく過ごしたいからこの女を辞めさせてと言っているんですよ。
なにかおかしいかしら。
ホームページのご意見欄に書き込めばいいです? それとも、部屋置きのアンケートに書く? 同じ事だと思いますけど。
音夜さんは、どうしてこの女を庇うんです?」



音夜の凄みにも、薄笑いを浮かべながらぴしゃりと言い返してしまう。一筋縄ではいかない。
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