俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
(そ、そうですよね)


綾香のことをなんて空気の読めない人だと憤っていたが、時と場所を選ばないのは、人のことを言えないようだ。


「音夜さんっ!! どういうことです?! その女が好きだなんて言わないですよね?!」


綾香は顔をくしゃくしゃに引っ掻き回し、嘘、嘘よ…とぶつぶつ言っている。


「鈴堂さん、あなたが聞いたとおりだ。俺はもうずっと長いこと、美夜が振り向いてくれるのを待っていたんです。彼女だけしか愛していないし、彼女以外と結婚だなんて考えられない。
あなたの行動は目に余るものがある。いい加減にわきまえて控えてもらいたい」


縋り付こうとする綾香を拒絶して、きっぱりと言い切った。それでも、それまでの彼女の行いを鑑みると優しいほうだと思う。

綾香は顔を赤くしたり青くしたり忙しなかった。


「また邪魔をして……」


凄い形相で睨まれる。ゾクッとして、一歩後ろに足を引く。


「こんな女のどこがいいんですか! 後ろ盾も教養もない一般人じゃない! 容姿だってたいしたことないし、下品に着飾って目立とうとしているのも滑稽だったわ! 偶然仕事がバッティングしただけで音夜さんに気に入られてっ」



――――詳しすぎる。
美夜は眉をひそめた。

美夜の外見、音夜との出会い、前職での出来事。まるでそれを見てきたようだ。


契約破棄になった話だけなら、噂で知るのもわかるが、そこまで詳細な噂が流れているのか。

綾香は美夜に爪を立てて掴みかかってきた。尖った爪に上品なネイルが、狂気を助長して見せた。

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