俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
音夜が美夜を守ろうと肩を抱き自分の背中に隠した。軽い揉み合いになる。


「音夜さんから離れなさいよっ。わきまえなさい! 仕事を追われただけじゃ足りないっていうのっ!」


まなじりは吊り上がり、清楚さはかけらも残っていなかった。


「―――どういうことです?」


聞き捨てならない、とでもいうように音夜の声は低くなった。
綾香ははっとして、少し冷静さを取り戻す。


「別に……どうもこうもないわ」

「どうもあなたは美夜の過去に詳しすぎる。なぜでしょうね」

「さあ? 音夜さんに付き纏っていた淫乱女の噂はよく聞こえてきたから」

「美夜は、わたしの妻になる人です。これ以上引かないのなら、侮辱罪で訴えますよ」

「っな、そんなことして、会社は……」

「美才治を甘く見ないでいただきたい。鈴堂さんの力がなくとも、威厳は保ってみせますよ」

「なんですって……?」


今まで会社間の取引をチラつかせて好き放題やってきたが、音夜はそれをも切り捨てた。もうそうはさせないと言わんばかりの迫力だった。


「音夜……」


(わたしのため……)


本当に大丈夫なのか。

自分一人のために、会社に損失を与えることになる。
そんなの、許されないんじゃないの。

その時、音夜の作務衣のポケットからバイブ音がした。着信だった。

音夜はスマートフォンを取り出すと、相手を確認して目を細めた。綾香から視線を外さないようにして、それにゆっくりとした動作で応答した。


「―――何かわかったか。―――ああ、そう……資料は?」


相槌を少なめに、相手が話すのを聞いていると「ありがとう、またかける」とすぐに電話を切りあげた。

一息つくと、綾香を視線で射貫く。
綾香はビクッと肩を揺らした。


「鈴堂綾香さん、あなたは、美夜の前職でのトラブルにも関与してますね?」
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