俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「うわ……!!」


狭い廊下で振り向き様だったので、リネンの塊で殴ったようになった。相手がどたんと壁にぶつかり倒れる。


「わ、きゃ…!」


慌てた美夜も重さでバランスを崩し、リネンの塊とともに相手の上に落ちた。


「いってぇ、びっくりしたぁ……」

男だ。

「わ、わ、すみません……!!」


押し潰してしまっている。過去最高の瞬発力を発揮して飛び退いた。
同時に慌てて頭を下げる。

下げた視界に映ったのは、グレーのスーツだ。自分の左右に見える足に、人様の股の間にいるのだと理解した。叫びそうになった悲鳴をなんとか飲み込む。
相手は腰を打ったのか、お尻を擦る。その腕には、自分の年収、何年分かわからない腕時計が光っていた。

一瞬にして血の気が引く。


――――もしや。これは、もしや!!

MISAIJI(ミサイジ)グループ御曹司!!)


「申し訳ありません!!」


殴り捨てるようにリネンの塊を横にどかすと、御曹司の顔が目の前にあり、バチっと目があった。
同時に時が止まる。見覚えのある顔だった。


「――――――え……」

(―――――――うそ。志波音夜(しばおとや)……!?)



似ている人を見間違えたかと思ったが、こんな目力のある綺麗な顔の男が、そうそう何人も存在するわけない。

黙っていてもオーラがあり、なぜが人を魅了する存在だった。

ずいぶんと久しぶりに顔を見たが、その魅力はまったく色あせていない。むしろ以前よりさらに大人の色気を纏い、進化している気さえする。
美夜が絶句していると、相手は一度訝しげに見返してから目を見開いた。


「うそだろ……」


呆然とした呟きが返ってきて、美夜も思い違いではないと確信する。

4年前、同業者のライバルとして、切磋琢磨しあった、志波音夜に間違いなかった。

どうしてここに。旅行? ぶつかってごめん。そんな恰好しているから、御曹司と間違えちゃったよ。
言いたいことが一気にでてきたが、口をぱくぱくするだけで声にならなかった。

めちゃくちゃ動揺していた。平常を装わないと。



「――――美夜!?」


ミヨル。ときれいに発音された音が、ストンと胸に落ちる。
ああ、こんな声だった。
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