俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
土日も定時退職もなく、帰宅してから顧客から電話があれば、その一本の契約をもぎ取るためにまた働きに出た。

この調子で、さらなる高みを目指すのだと意気込んで飛び込み営業した先に居たのが、志波音夜(しばおとや)であった。



飛び込み先は、おおあたり不動産。

定年退職した60代の男が、一人で気ままにやっている小さな不動産屋だ。
ここへ来たのは、駅前の商店街の再開発で、この人が取引にあたり重要人物だという噂を耳にしたからだ。


自宅兼の小さな事務所には、でっぷりとしたおじさんと、場違いなほど美しい男がいた。
瞳の色が珍しく明るい。きょろりとこちらを向いた瞳はヘーゼルだった。ハーフだろうか。

美しい男は一目で仕立てがよいと分かる、オーダーメイドであろうスリーピースを着こなしている。ゆるく後ろに流した栗毛の髪はワックスで適度に纏められている。
若く見えるが、妙に風格があった。オーラがある、とでもいうのか。


100人がこの男の容姿を評価したならば、99人は格好いいと回答するであろう。あとの一人は、きっとB級好みの変わりものなだけ。それほど眉目秀麗という四字熟語がぴったりだ。

グレーの古臭いデスク越し、折り畳みの椅子に膝を揃えて座る姿はアンマッチだ。
土地や住まいを探す若者にも見えないし、投資目的の金持ちが、個人経営の小さな店に来るだろうか。
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