俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
美夜が事務所のドアを開けるまで、和気あいあいと話していた様子からは、かしこまった雰囲気もない。

―――—と、いうことは仲の良い同業者の雑談……?


「どちら様?」と声をかけられたので、とりあえず挨拶だけを済ましてまた来訪しようと決めて名刺を取り出す。

「お忙しいところ、突然のアポイントで申し訳ございません。わたし、プロパティーという会社の手嶋と申します。弊社では土地の仕入れに力をいれておりまして、ぜひお取引やご紹介をいただきたく、ご挨拶に参りました」


名刺を差し出しながらなるべく早口で端的言うと、男に「空気の読めない営業だな」と鼻で笑われる。


(空気を読んだから早口の挨拶にしたんだわ!)


思わずむっとしたが、それを隠して頭を下げた。

おおあたり不動産の社長、大当《おおあたり》は名刺を受け取りながら「こらこら」と男を窘めた。

「お話の邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした。本日はご挨拶だけ。後日改めてご相談させていただきたいです」

「プロパティーさんかあ。取引したことないなぁ」


大当は名刺を見ながら「まぁ話を聞くくらいなら」と感触は悪くない。

お前に転がしてやる土地はないと追い出されることも多いため、時間をもらって話を聞いてもらえるだけありがたい。
一度話さえさせてもらえれば、相手の懐に飛び込む自信はある。


女の武器をつかって―――と言われるかもしれないが、屈強な男より愛想の良い女の方が話しやすいこともある。
あとは、こんな小娘で大丈夫かと不安に思われないように、知識とやり手な面を徐々に見せて行けばいい。
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