俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました



MISAIJI(ミサイジ)グループ会長のご子息が、当旅館に明日より研修にいらっしゃることになりました」

夕礼で女将から放たれた一言に、美夜は職場の雰囲気が堅苦しくなったら嫌だな、くらいにしか思わなかった。
現場を知らないお偉いさんに、あれこれ口をだされては仕事がやり辛くなる。


一日に一度の夕礼は、宿泊客への夕食の提供を終え、自分たちの食事を取り、食堂の全ての片付けを終えてから行われる。24時間365日稼働し、常にお客様がいる旅館ではあるが、この時間に一日の業務が一段落する。

美夜はみんなと夕食を一緒にとることは少なく、自室で食事を終えてから合流することが多い。今日も一日頑張ったなぁ、と心地よい疲れを感じることができるのがこの夕礼だ。

いつもは次の日のシフト、宿泊者の情報、役割分担などの確認、当日の出来事を報告しあうが、今日はそれに一つ加えられたお知らせが、先程の研修の話であった。

MISAIJI(ミサイジ)グループの時期社長と言われている男が、一ヶ月ほどこの旅館に研修に来るらしい。

「常務という立場のある方ですが、各グループ会社すべてで研修をし、現場を理解しようとしてくれている方です。
グループ会社のホテルで既に研修を終えており、宿泊部門から宴会部門まで経験済です。

旅館業は初めてらしいですが、今回は当旅館の、『社内子育て』に感心を持ち、積極的に取り入れている『ウォッチオーバー』設備を、他のホテルや他業種でも採用できればとのお言葉をいただいております。
ですので、旅館全体の勉強もなさるでしょうが、今回は特に、子育て中の従業員の働き方ついて知りたいそうで―――」


(――――ん?)


星林(せいりん)亭には何人かの子育て中の皆さんに働いてもらっておりますが、明日からどなたかに専属でついてもらおうかと……」

どうせおぼっちゃまは経営方法を見に来て、予算削減しろだの口を出しに来ると思っていたら、なんだか話は違う方向に進んでいた。
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