俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「っだ、だいじょうぶっ」

痛いところというか、本当は全身違和感だらけであったが勢いよく否定する。

そんなこと恥ずかしくて言えない。


「そう?」

「っげ、元気!」

「ふ、元気なの? じゃあ、もう一回しちゃう?」

「―――――も!?」


爆弾発言に、勢いよく顔をあげると、音夜《おとや》が噴き出した。


「恥ずかしがりすぎだろ。真っ赤だし」

「な、だっ……て、も、もう一回とか……」

「嘘だよ。今日はもうゆっくりしよう。美夜《みよる》は昨日飲みすぎだ。二日酔いじゃない?」

「う、うそ? うん……わかった。え、ううん。二日酔いでは、ない」

「いっぺんに返事するなよ」


音夜はクスクスとわらいながら、美夜の真っ赤な頬を親指でさすった。

毎日豪華に盛っていた顔のすっぴんを、とうとう晒してしまった。
本当は素朴な顔だからいやなんだけどな。


「やっぱりな。素がいいのはわかってたんだ。可愛い。すっぴんのほうが好み」


どうしよう。甘すぎるんだけど。
音夜の態度は、まるで恋人に向けられるものだ。


「俺もシャワー浴びてくる。コーヒー飲んでまってて。落ち着いたら午後はちょっと出かけようか」


軽く唇を啄むと、音夜はバスルームへと向かう。


「――――――あ……」


見たこともない音夜に、心臓がばっくんばっくんとした。

――――――昨夜、何があったのだろう。どんな会話をした?

なんで音夜は優しいの?

しでかした大きな失敗は、音夜の会社にも影響があるはずだ。
昨夜はついつい一緒に飲んでしまったが、改めて冷静に考えると、取引でいろんな疑惑がある自分と、同業者である音夜が一緒にいるのはまずい。

そうでなくとも、よく仕事がバッティングしていたことを周囲には知られている。



課長との噂も酷かったのに、さらには同時契約をとった美才治不動産のトップ営業マンとも関係があったなどと噂がたったら、音夜まで疑われてしまう。


昨夜はなにを、ぶちまけたんだっけ?

まさか顧客の情報は喋っていないよね。いくらクビになったからと行って、守秘義務がなくなったわけじゃない。

記憶のない自分が急に怖くなる。

バスタブを伺うと、シャワーを捻る音が聞こえた。


社内の視線、噂話。
上司の怒鳴り声。
身を竦ませていた出来事が、次々とフラッシュバックする。


(志波さんまで信用を失うようなことになったら、償っても償いきれない)


一緒にいちゃいけない。

コーヒーには手を付けずに荷物をかき集め、一目散にホテルを飛び出した。

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