俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました




――――そして無事、星林亭(せいりんてい)で住み込みで働くこととなり、今に至る。




久しぶりに見た顔に、見ないふりをしていた気持ちが爆発しそうになった。

唯一、味方になってくれた人。
あの時の、満たされた気持ちを忘れていない。

たった一度きり。迷惑を掛けたくなくて逃げたけれど、本当はあの時から惹かれていたのかも。

栗色の髪。珍しいヘーゼルの瞳。
音夜にそっくりな男の子が生まれた時から、叶わない人との家族に憧れていた。

一人で頑張るのだと決心はしていたが、たまに揺らいだ時に思い出す人は音夜だった。

それが、つらい時に支えてくれたからなのか、子供の父親だからなのかはわからない。でも、あの日から、意識していた。特別な存在なのは間違いなかった。



「ご、ごめん。色々事情があって。あの、ちゃんとホテル代なら払うから」

「ホテル代?」

「え? う、うん……。あの、最後に、会った日の……」


音夜は数秒考えて思い立ったらしく、舌打ちをした。


「そんなのいらない。なんだよそれ。意味がわからない」

「迷惑かけたのに申し訳ないけど、一括は無理で……でもこれからもちゃんと、毎月払うから」

「これからも毎月……? まさか、会社に俺宛で毎月現金書留を送ってきたキモイ犯人は美夜か!」


音夜はあっけにとられた。
顔を覆い、このバカと口走る。


「キモイ!? ひとのなけなしのお金をっ」

「キモイだろ! どこの誰かもわからない奴から名指しで金が届くんだぞ!?  しかも質素な茶封筒で! 秘書からはストーカー女からの結納金で、満額になったら正体を現すだとか面白がられるし」

「だ、だってあんな豪華なホテルに泊まっちゃって、申し訳ないと思ったんだもん……」

「いや、俺、そういうの心配するなって言ったよ。だから、気にしないで辛い気持ち発散しようって」

「いつ? バーで?」

「4年も前のこと、細かく覚えてない」


――――――――確かに。


一介の営業マン志波音夜ではなく、この男がMISAIJIグループの御曹司、美才治音夜であるなら、大した金額ではないのかもしれない。

でも、憶えていない。
前後不覚になるほど酔っていたんだ。申し訳ないが、聞いた記憶などカケラもない。
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