俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
仕事がおしてしまい、いつもより15分ほど遅れて保育施設に迎えに行くと、待ちわびていた夜尋が走ってきた。


「おそいの! めっ! だめなの!」

「うん。ごめんね。お待たせ」


しゃがんで腕を広げると、飛びついてくる。

いつも感じる夜尋のにおいを吸い込んで、ほうっと息をついた。
きゅっと抱きしめて柔らかい髪を撫でる。我が子を抱きしめて、一日の仕事に区切りをつける。
この瞬間がとても幸せだ。


「ごめんな。おじさんがお母さんに仕事を教えて貰って遅くなっちゃったんだ」


隣にいた音夜が声をかけた。


「だあれ」

「お母さんのお友達だよ。こっちにおいで」


手のひらをさしだすと夜尋はきょとんする。知らない人なので警戒して考えているようだ。
美夜の作務衣を掴むと「やーなの」と胸に顔をうずめた。


「たかいたかいしようか。お母さんよりもっとずっと高いところに登れるぞ。ブーンってするか?」


音夜は曲げていた膝と腰をぐっと伸ばして万歳をした。
それを見ていた夜尋は、音夜を見上げて目を輝かせる。


「ひこーき! あいっ」


返事をすると、手足をばたつかせて音夜のほうにすんなりと移った。


「こんな子供までいとも簡単に絆してしまうなんて……」

「こらこら、言い方」

「だって、いつも最初は人見知りするのに。子供好きだったの?」

「子供がっていうより、夜尋が好きなの。可愛くてたまらない。
正直育児は初めてで手探りだけど、期限もせまっているし、味方は多い方がいいからね。俺だって必死なんだよ」

「そうだ、“志波さん”は外堀を完全に埋めるタイプだった……」


当時一緒に仕事をしていたとき、頑固な地権者たちが次々と籠絡されていく様を思い出して、複雑な気持ちになった。


「はは、美夜の口調も昔みたいに戻ってきたよ。懐かしいね」


夜尋は肩車をしてもらうと、きゃっきゃと喜んでおしりを跳ねさせた。
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