俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

次の日から、夜尋は音夜をパパと呼ぶようになった。

おーくんだったり、おーくんパパだったりいろいろ混じるが、音夜は呼ばれるたびにデレデレしている。


「ねぇ、夜尋(やひろ)くんが美才治(みさいじ)さんをパパって呼んでるの聞いちゃったんだけど……!?」


旅館まわりの掃除をしていると、花恵が周囲を確認してから耳打ちしてきた。

今日は音夜は、午前中は本社と会議をしなくてはいけないと、事務所に籠っていた。花恵はどうやら話す隙を狙っていたようだ。

竹ぼうきを動かしながら、芸能スクープを掴んだ記者のごとくぐいっと身を乗り出した。


「どういうこと? 研修で一緒に過ごすうちに夜尋くんが勘違いしちゃったってこと?」

「あー…ええと、それなんですけどね……」


しどろもどろになる。
まだ曖昧な関係すぎて、いつどのタイミングでみんなに言うべきなのか、決まっていなかった。


「えっと、また後で詳しく話しますけど……実は美才治さんが夜尋の本当の父親なの」

「は、はぁぁ?! ええっ!? うそー!!」


存分に叫んでから、花恵はしまったとばかりに口を覆う。
すれ違ったお客様は何事かと視線を寄越したが、にっこりと笑顔をむけて誤魔化した。



「うそうそうそ。似てるなぁなんて思ったけど、まさか本当に? すごい! 玉の輿じゃない。なんで一人で働いているのよ!」

「出会ったときは、同業種のライバルってだけで、そういう…なんていうか、家柄が良い人だって知らなかったんです。連絡先も知らなかったし、妊娠してから一度も会わなかったので……」

「なんだかすごく訳ありなのね。でも、今のあなたたち、すごく良い雰囲気だよ。幸せな気持ちが伝わってくる」
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