俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
8
次の日から、夜尋は音夜をパパと呼ぶようになった。
おーくんだったり、おーくんパパだったりいろいろ混じるが、音夜は呼ばれるたびにデレデレしている。
「ねぇ、夜尋くんが美才治さんをパパって呼んでるの聞いちゃったんだけど……!?」
旅館まわりの掃除をしていると、花恵が周囲を確認してから耳打ちしてきた。
今日は音夜は、午前中は本社と会議をしなくてはいけないと、事務所に籠っていた。花恵はどうやら話す隙を狙っていたようだ。
竹ぼうきを動かしながら、芸能スクープを掴んだ記者のごとくぐいっと身を乗り出した。
「どういうこと? 研修で一緒に過ごすうちに夜尋くんが勘違いしちゃったってこと?」
「あー…ええと、それなんですけどね……」
しどろもどろになる。
まだ曖昧な関係すぎて、いつどのタイミングでみんなに言うべきなのか、決まっていなかった。
「えっと、また後で詳しく話しますけど……実は美才治さんが夜尋の本当の父親なの」
「は、はぁぁ?! ええっ!? うそー!!」
存分に叫んでから、花恵はしまったとばかりに口を覆う。
すれ違ったお客様は何事かと視線を寄越したが、にっこりと笑顔をむけて誤魔化した。
「うそうそうそ。似てるなぁなんて思ったけど、まさか本当に? すごい! 玉の輿じゃない。なんで一人で働いているのよ!」
「出会ったときは、同業種のライバルってだけで、そういう…なんていうか、家柄が良い人だって知らなかったんです。連絡先も知らなかったし、妊娠してから一度も会わなかったので……」
「なんだかすごく訳ありなのね。でも、今のあなたたち、すごく良い雰囲気だよ。幸せな気持ちが伝わってくる」