俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「鈴堂綾香のことは理由の1つにあったけど、一番はウォッチオーバーを身近に感じてみたいっていうのもあったし、旅館業も経験したかったからだからな」

「もちろん。存じ上げておりますよ」


美才治音夜(みさいじおとや)が研修マニアなのは、周知の事実だ。
いまや、知らないグループ従業員はいないのではないか。


「雲隠れしている隙に、鈴堂との取引からも手を引けるように手を回しているところだったんだけど。
まさかここまで追いかけてくるなんて……はぁ。勘弁してほしいよ」

「どうにかならないの? あちらの会社から手を回すとか」

「鈴堂は俺と綾香がくっつけば利益があるからな。あちらも綾香の結婚相手をさがしてるわけだし、親父さんはのらりくらりって感じだよ。寧ろ俺が困っているのを面白がってる」

「そんな……」

「申し訳ないけど、最終的には法的な手段をも考えてる。かなり抉れるけど、迷惑極まりないんだよね」


彼女の登場から数時間でげっそりしている音夜に、心底同情した。


「お疲れ様です……」

(御曹司も楽じゃないんだな)

「俺としては、美夜に理解がありすぎるのもちょっと不満なんだけど」

「え?」

「やきもちとかさ」


妬いてくれないの? と訴えてきた目に、心臓を撃ち抜かれる。


(――――あ、あざとい……!!)


「ねぇ、彼女が俺に抱きついたとき、どう思った?」


音夜の腕が背中に回る。つつつ、と強請るように指が這った。


「そ、そりゃあ、むっとしたっていうか……」

「それで?」

「音夜が付き合ってるのはわたしなのにって、凄く嫌な気持ちに……」


しどろもどろに告げると、音夜の上がった口角の端から、ふっとうれしそうな空気が洩れる。


「俺も、やたらと美夜の頭を撫でる料理長とか、無駄に頼ってくるあいつとか、なぜか呼び捨てのあの男とか、抹殺したいって毎日思ってる」


細めた目は笑っていなかった。
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