俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
次の日に追い返す筈だった鈴堂綾香は、二日目も三日目も居座った。


「まだ帰らないのか」


音夜も呆れて、どんどん口調が冷たくなる。


「宿代を払って宿泊しているのよ。何か文句ありまして?」

「あなたにも仕事があるんじゃないですか。お付きの者たちが困っていますよ」

「仕事はパソコンでどうにかなってるわ。わたしの仕事の心配までしてくれるなんて、やっぱり音夜さんは優しいのね」


彼女は客という立場も手に入れて、尚更やりにくくなった。
到底、旅館側からはアクションを起こすことは出来ない。従業員への付き纏いで、迷惑行為として出禁にすることもできるが、それをすると星林亭に悪い影響があるかもとの音夜の進言で、今の段階では静観するのみとなる。


美夜と夜尋になにかあったら……という理由で、一緒に行動することは控えていた。
彼女らが来てからは他人のふりを続けている。
夜尋が会いたいと愚図るのが一番大変で、どうしたものかというところだ。


この短期間で、一緒にいることに随分と慣れてしまったらしく、音夜が近くに居ないのはなんだか物足りない。
すでになくてはならない存在になっていたのだと気がついた。


変わりに音夜にベタベタとする彼女がどうしても視界に入ってしまい、音夜にその気がないとわかっていても苛々とした。

そのもどかしさは仕事にぶつけるしかなく、余計なことを考えるのが嫌で、美夜はとにかく没頭する。


「美夜ちゃん、凄い勢いでこなすねぇ。フラストレーション溜まりまくりって感じ」

「堪ってる仕事、じゃんじゃんください」

「目が据わってるよ。その顔お客様の前でしちゃだめだよ」

「肝に銘じてます」


花恵は、音夜も美夜も可哀想だと言った。


「美才治さんの、あのすげない対応に何も感じないのすごいよ。わたしだったらあの綺麗な目で睨まれただけで泣いちゃう。美夜ちゃんもよく我慢してるよね」


「立場的にも強く出れなくて放置してたらしいけど、そろそろ法的手段を取るって言ってたから。もうちょっとだと思うんです」


音夜が我慢して頑張っているのを知っている。それなのに、寂しいから構ってだなんて自分ばかりがわがままを言うわけにはいかない。
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