俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「でもさ、そういうの、理解はできても納得できなくない? 寂しい気持ちはあるし、毎日ベタベタしてるの見せつけられたら、どうしても嫌な気持ちになるよ」


音夜も極力、綾香に会わないようにしてくれているが、限界があった。

星林亭は山の上の旅館という、言わば陸の孤島なわけで。

綾香は必ず音夜を見つけ出し纏わり付いた。



「美夜ちゃん、わたし次の部屋、先に行ってるね」

「はあい、最終チェック終わったら、わたしもすぐに行きます」


先に部屋を移った花恵を追って、自分も部屋を一周し、チェックを終えると掃除機を抱えた。
木製格子の趣がある内側の引き戸を開け、さらに廊下へと続く引き戸に手を掛けたとき、扉がガラッと開く。

目を見開く。音夜だった。


「え? あ、ちょっと……?!」


凄い勢いで飛び込んで来た音夜に肩をおされ、ぐいぐいと部屋の中へ戻された。


「ごめん、ちょっとだけ充電させて」


後ろ手に扉を閉めて部屋の奥へと進むと、音夜は徐に美夜を抱きしめた。



「音夜……」

「五分だけ……いや、やっぱり十分」


深いため息をつき、美夜の頭に頬ずりをした。

美夜も、待ち望んでいた音夜の温もりに、背中に手を回し、逞しい胸に体を預けた。

ああ、音夜の匂いだ。


「……大丈夫?」

「美夜と夜尋が足んないよ。せっかく幸せの絶頂だったっていうのに、なんだってこんな……夜尋は? どうしてる?」


心配事を増やすのも気が引けたが、全然大丈夫と言うのも違う気がした。


「えっと、寂しいって言ってる。早く会いたいって」


「うん。そうだよな……夜尋の為にも早くなんとかしなくっちゃ。俺達がさっさと入籍して、結婚してるって言うのが一番効果的だけど、そうもいかないもんな……」


美夜も、すぐにでもそうしたい気持ちはあった。
旅館のこと。
音夜の立場。
夜尋の環境の変化。

色々なことを考えると、少しずつゆっくり進めるのが最善だ。彼女を理由に急ぎたくない。


でも、手をこまねいていることしか出来ないのは、とても悔しかった。

綾香には、綾香なりの思いがあるとは思う。
迷惑極まりないが、ここまでついてくるなんて、よっぽど音夜が好きなのだろう。
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