『ペットフード』
苺美はまた歩き出した。
そして向かう。
雨哥のアパートへと。まるで帰るかのように。普通に。鉄の階段を上がって行く。
苺美は雨哥の【201号室】の前に立つ。
苺美の【201号室】ではない。雨哥の【201号室】。
私を待ってるだけにして…と最後のお願い。
前みたいに…入るなんて事しないで。
でも、やっぱり苺美なのだ。
鞄の中からいつも使っているキーケースを出す。見覚えのあるキーケース。

そして、そこに付けられている鍵の1つを手に取る。
雨哥のドアの前で、その鍵を手に、苺美がその行動を見せた。
雨哥のドアの鍵穴にその鍵を挿す。
その手を捻る。戻す。鍵を抜く。
そして…ドアが開いた。やっぱり合鍵を作っていた。いつ?
自分の家に帰るようにそのドアを開け、中へと入る。ドアが閉まる。
そのドアの向こうから、鍵を掛ける音がした。
ただ帰ったような姿。ごくごく普通に見える。
どうして…。何で?何の為?何するの?何で?何?
「何」が止まらない。
【苺美が勝手に家に】まで打ち、スマホをポケットに戻した。
航路にストップを響かせた。
仕事中だ。それに…琉羽に心配させないようにしたいと思った。
だから送るのを止めた。
今はまだ…。自分だけで…。
『まだ大丈夫。いざとなったら逃げるか…。タキさんいるかな?』と心でふと思う。
自然とタキの存在を思った。
< 112 / 251 >

この作品をシェア

pagetop