『ペットフード』
「もう仕事ないから、今からウチにおいでよ!」と雨哥は苺美の腕を引いた。少し強引に。
いつもは苺美がする動きを今は雨哥がやり返す。いつも苺美が取る行動。
ほら、困るでしょ?迷惑でしょ?
アンタは何回やったのよ!断るなんて許さない。
ここで断るなんて行動、苺美に出来る訳がない。あの日以来、雨哥からの声は少なくなっていた。
雨哥に誘われて断るなんて事、ある訳ない。苺美は嬉しかった。
雨哥の知らない苺美の本当の姿。見せないようにしている姿。
見せてしまったら、知られてしまったら、また会えなくなる…。
母親の時のように。雨哥しかもういないから…。雨哥には言えない、言わない。
そんな想いを雨哥は知らない。知る訳がない。知られないようにしているのだから。
ただ本当に好きなんだ。雨哥の事が。
あの時のお母さんと同じように…。
もう放さないで。離さないで。離れないで…。放したくないだけなの…。
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