『ペットフード』
「飲むでしょ?」と冷蔵庫からビール間を取り、苺美に渡す。
何の疑いもなく受け取り、いつものように飲む苺美。本当にいつもと同じ。
少しは疑えよと心では思うが、言葉にも表情にも出さない。いつもの自分。笑顔の自分。
“笑ってあげる” が慣れた自分。それが雨哥の苺美への “普通” にいつしかなっていた。

「何かの用事であんな所にいたの?」とジュースを飲み、苺美を見る。
「えっ?」と苺美も雨哥を見た。
まだ余裕はあるらしい。表情、目の動きで分かる。雨哥は苺美の表情で分かる。
「何であそこにいたの?」と冷静に聞く。特に変わらない声のトーンで。
「買い物の帰り」
あっそう。散歩じゃなかったっけ?
「買わなかったの?」
「えっ?」
「何も持ってないじゃん。鞄の中に入る物?」
「あっうん」
まぁ、そんな事、どっちでもどうでも良い。
次の会話へ移る。
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