『ペットフード』

タキの部屋は広く感じられた。
間取りは、どの部屋も同じはず。
だけど、タキの部屋は広く見える。家具が少ないから?
違った。玄関から入り、リビングに入ると、雨哥の家にはないモノがあった。
タキの部屋は、1つ重たそうな鉄板のような扉があり、その扉の向こうは隣の【102号室】と繋がっているようだった。

こんな事…出来るんだ。何の為…に?
それは明かされる。すぐに分かる。
「いい?声、大声出すんじゃないよ。アンタの為なんだから。分かった?」
タキに強めの声で言われ、「はい」とだけ答えた。素直な答えだった。
「じゃあ、まずこれ着て」
タキに手術の時に着るような術衣と、ビニールの雨合羽のような物を渡される。
「えっ?」と戸惑う雨哥に「それ以上、汚れるから」とタキは雨哥の胸元の辺りを見る。
「あ…」
雨哥の服、胸元の辺りが赤で汚れていた。
気付かなかった。そこまで考えられなかった。
雨哥は何も言わず、タキの方へ視線を戻す。
「早くして。それとも帰る?今なら、何も起きなかったまま帰れる。どうする?選べ」
タキに言われ、「はい。すみません」と雨哥は迷わず、術衣と合羽を着た。
帰らない!
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