『ペットフード』
次の瞬間。
雨哥の瞳孔が今の苺美を見ようとせず、全てを暗く閉じようとする。
意識が遠くなる。痛みが走る。
「倒れるなんて許さないよ」
タキの指が雨哥の頬を捻る。
親に怒られているような気持ちになる。
痛みが雨哥の視界をハッキリさせ、その目に苺美が映った。現実を見る。

「タキさん…私が…私…この子を…タキさん、どう…どうしよう」
口を抑え、タキに縋る。
タキはもう1度、雨哥の頬に痛みを走らせた。さっきよりも強めに。でも、どこか優しくも感じられた。
「あんたがやったのは分かってる。大丈夫だから。この場所なら、大丈夫。約束する。信じろ。」
タキが続ける。
「だけど、今から言う事を守るならの話だ。見た事を忘れず、そして黙ってなさい。いい?守れる?」
この時、雨哥は泣いていた。ここに来て初めて泣いた。
どこか落ち着き始めていた。
不思議と自然にタキを信じた。タキを頼った。タキを選んだ。
「助けて」と素直に心が求めたから。
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