『ペットフード』

「持って」と言われ手に持つ。
「見ろ」と言われ、その赤を見る。
「アンタはこの子の事、どう思ってたんだ?」と聞かれる。
どう…苺美…。コイツ…。
苺美の事をどう思ってたか…。
好きだった…。
以前は好きだった。
好きでいたかった。
いられなかった。
いたかった自分もいたんだ。
好きでいさせてくれなかった。
だから嫌いが多くなった…。
多分…。そう…。多分ね。

「前は好きだった…けど…今は…好きじゃ…ない…分からない」
雨哥の答えに、タキが雨哥の肩に手を置く。
温かい。タキの手に雨哥の小刻みが伝わる。

『越えろ』とタキは心の中で願った。
なぜ…子の子を…。
タキの手の温かさが雨哥に返る。
優しかった。多分…。優しかったと思う。
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