『ペットフード』
内臓まで出てくれたらどんなにラクだろう…。今までにない熱さと不味さと辛さと何かで目から出る粒も赤いのでは?と疑いたくなる。全部、出してしまいたい。
手に着いた赤が滲んで、涙なのか何なのか分からない。
「涙…私の涙…私から出てるの…赤い?ヤダ。タキさん、赤い?涙?」
こんな事を言う子、初めてだった。
変な子。素直な子。
まぁ、ここに立ち合う人がまずほとんどいないだけなのだけど。

「涙?赤い?」と手とタキを見る。
なぜそんな事を聞くのか分からない。でも、きっと雨哥から出る液(涙)は赤くはないと思う。もし赤かったら、赤が滲んで薄くなる事はない。
「お前の涙は赤くなんかない。大丈夫だ。これで口を濯ぎなさい」とタキがペットボトルを差し出す。
雨哥が首を振る。
また苺美だと思ったから首を振る。
タキはその雨哥の嫌がった表情に少しだけ、一瞬だけ頬の筋肉を緩めた。
可愛く見えたんだ。
「違う。ほら」と雨哥の手にペットボトルを握らせる。
「いつまでも不味いのは嫌だろ」
一瞬、赤く感じた。
けれど、それは自分の手がペットボトルを通して見えている色だった。
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