『ペットフード』
初めて聞く音、聞いた事のある音を背に、雨哥は洗い流す作業をして行く。

初めての感触。音。形。温かさがなくなり、水の温度に変わって行く。
案外、触り心地は良いんだと感じた。
生物の授業みたい…。
そう言えば、蛙や魚の解剖も別に平気だったな。周りは騒いでたけど。
「気持ち悪い」とは思ったけど、それだけで、別に平気だったっけ。
そっか。あの時から平気なんだ。

「雨哥、こっち来て」とタキに呼ばれ、手にしていたナニカをボウルのようなアルミの器に入れ置いてから、タキの横へ行く。
「雨哥」と呼ばれたのが嬉しい。
ベッドの上の苺美は、何かどこか足りてない。そっか、この部分かと納得するだけ。
「雨哥、この子の目以外でどこが良い?」と手袋を着け替えながらタキが聞く。
「目…以外?」よタキの横顔を見ると「目は残念ながら人気だからさ。目以外で子の子の好きな部分とか…印象深い部分ってある?ないならテキトーに渡すけど」とタキはメスを手に取る。
本物のメスを見たのは初めて。
これで切ったら…。怖くなる。触らないようにしよう…。
でも、いつか使う事に…
「ないの?」のタキの声にメスから意識が外れた。
“好きな所…”
ない。嫌いだから。
“印象深い所…”
浮かんだ。自然とフワッと浮かび、雨哥はそこを指差した。
「足首?」とタキが苺美の足首を見て確認する。雨哥が指差したのは足首だった。
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