『ペットフード』

「苺美…」
その後の一言が言葉に出来ない。
「今、どこにいるの？」の一言が。
「何?」と言う苺美の側で聞こえた。
「〇〇県〇〇市選挙、立候補の…」と言う選挙カーの音声が聞こえて来ている。
その県、その市は今、琉羽が出張で行っている場所だ。
まさか…ね…。
『どうして？どうしてその場所に苺美が…』
出張は嘘ではないはず。
聞けば全てが崩れる気がした。
苺美ではない。琉羽を信じる。
「雨哥?雨哥！」何度目かの自分を呼ぶ声に「うん」と返事をする。
「帰ったら連絡するね」
いつもの調子の声に合わせ「分かった。会える日、連絡するね」と雨哥もいつもの声で返事をする。
この声を出すのは慣れたものだ。
それを信じるバカな奴。
「じゃあねー」
明るく終話する歌の声でその会話は終了する。

雨哥は深呼吸をし、ビーズのフタを開けた。
駄目。考えたって分かるはずがない。
何なの?何で、なんで…ナンデ？
ビーズの輝きが少し潤む。
まだ泣かない。
潤んだ世界を消したい。
ビーズをテグスに通して行く。
消えろ。