乙女ゲームの世界に転生しましたが、攻略対象者じゃなくて初恋の彼に逢いたい
7話『入学式』
私たちが暮らしているグランデール王国は海に面した国で比較的豊かな国だ。
魔獣や魔物が出る事もあるが、防御壁に囲まれた街での被害は軽微、小さな農村には多少の被害が出ているが、魔物や魔獣等を狩り獲物とする狩人組合や統治者である貴族達の領兵による定期的な討伐なども行われるため、比較的住みやすい国だと言える。
周辺諸国とも良好な関係を築けていることもあり、ここ百年ほど大きな戦争もなく貴族の子息令嬢の数も多い。
そんな貴族の子息令嬢が成人前に入学を義務付けられているのがラフィール学園だ。
特にここ数年は今年最終学年になるグランデール王国の王太子殿下を初め、本年新入学される第二王子殿下と学友となるように貴族たちもこぞって子作りに励んだこともあり近年まれに見る人数になっている。
真っ白なブラウスに胸の下で紐で閉めるハイウエストのプリンセスラインのワンピースは踝まである濃紺のロングスカートで、同じく濃紺の丈の短いブレザーを羽織り本年度の入学生の証である緋色のリボンをブラウスの首もとに結ぶと、壁に掛けられた大きな鏡の前でくるりと華麗にターンを決めた。
学舎へ移動し学園の新入生が集められた一角で唯一の知り合いであるレオンハルト様を見つけ、改めて先日のお礼を告げようと声をかける。
「レオンハルト様! 先日は馬車に乗せていただきありがとうございました」
走り寄って深々と頭を下げると、なぜか辺りが騒然とし始めた。
「いや、当然のことをしたまでだ。 今日からはここにいる皆が仲間でありライバルになる、よろしくね」
「はい!」
元気よく返事をすれば、数名の男子生徒を引き連れて颯爽と去っていく。
「ちょっと貴女!」
「きゃっ!」
左肩に手を掛けられてぐいっと後ろに引かれたため、重心を崩して地面にお尻から尻餅をついた。
じんじんとした痛みがお尻と変に体重がかかって挫いた左足首、腰に広がり目が潤む。
「危ないじゃない!」
腰を擦りながら引き倒したであろう女子生徒を睨み上げる。
「礼儀作法すらなっていない田舎娘風情が殿下に話しかけるなど身の程を知りなさい」
あっという間に私と同じ色のリボンを着けた女子生徒達に囲まれてしまった。
男子生徒のネクタイと女子生徒の制服のリボンの色は学年によって決まっており、学生時代の三年間は色が変わることはない。
今年新入学の生徒は緋色のネクタイかリボンを着用することになっている。
私を引き倒し、集団で囲んでいる生徒の制服を見れば彼女達が高位貴族のご令嬢だとすぐにわかった。
リボンへ刺繍やレースを縫い付けたりブレザーにフリルをあしらったりと皆様、それぞれが制服を改造しているのだ。
数十着もの制服を所持してその日の気分でコーディネートして過ごす彼女たちの制服はキラキラゴテゴテしており、もはやゴスロリと大差ない。
おしゃれな制服は高位貴族のご令嬢のステータスなのだ。
全くなにも手を加えていない私の制服は大層みすぼらしく彼女たちの目に映るのだろう。
「助けていただいた恩人に御礼を伝えるのに田舎者は関係ありません! ……えっ、今殿下って」
反射的に反論して、令嬢の言葉の中にあった単語が記憶の片隅に引っ掛かった。
「なにを騒いでいる! 式の進行を妨げるな」
騒ぎを聞き付けた教師たちが割り込んできたことで何も無かったようにご令嬢包囲網が速やかに解かれると、無様に地べたに座り込む私の姿に自分の子供の晴れ姿を見ようと集まった新入学生徒の保護者達から小さな嘲笑が起きた。
この世界は中世ヨーロッパのような身分制度に現代の生活様式を取り込んだような世界だ。
基本が土足、絨毯を敷き詰めた廊下を靴を履いたまま移動するため、座るのは椅子やソファー、いくら使用人たちの手によって綺麗に掃除され汚れなど見えなくても、土足で穢れた床にそのまま座るなどあり得ないことだったりする。
「君、早く立ち上がりなさい」
「はい、申し訳ありません」
返事をして立ち上がり、土ぼこりで汚れてしまった制服を払うとざっと周りから離れられた。
「これだから田舎者は嫌ね」
「制服が汚れてしまうじゃない!」
そんなことを言われても、この年まで貴族のご令嬢と言うより使用人暮らしを満喫してきたものの、これでも王都産まれの王都育ちなのだ。
その持論でいったら王都は田舎と言う事になり国王陛下すら田舎者になってしまう。
前世の演歌歌手が歌っていた都会へ行く歌を思いだし、王冠を頭に乗せて牛を引く陛下の姿を想像し、あまりのミスマッチ具合に、式が始まって吹き出すに吹き出せず身悶える。
「新入生代表の挨拶、グランデール王国第二王子レオンハルト・グランデール殿下」
壇上に姿を表したのは先ほど私が駆け寄ったイケメン、そうレオンハルト殿下だ。
「第二……王子、メイン攻略対象者レオンハルト殿下……悪役令嬢アンジェリーナ・クロウ?」
ズキリと頭に激痛が走り目を閉じて痛みを受け流そうと試みる、壇上で立派に新入生代表の挨拶するその姿は二次元のスチルと同じとは思えない。
名前や髪の色や瞳の色は設定に類似している、制服のデザインはゲームのキャラクターに扮したコスプレーヤーか舞台の俳優に近い。
そう、勝っちゃんとプレイした乙女ゲームを実写化したらこんな感じの……
頭痛がひどい、纏まりそうで纏まらない思考回路が警鐘をならす。
「ちょっと貴女大丈夫? 真っ青よ」
隣にいた女子生徒が心配して声をかけてくれた。
「ありがとう、大丈……」
ふっと視界が暗転し目が覚めれば白いカーテンに囲まれたベッドの上だった。
私たちが暮らしているグランデール王国は海に面した国で比較的豊かな国だ。
魔獣や魔物が出る事もあるが、防御壁に囲まれた街での被害は軽微、小さな農村には多少の被害が出ているが、魔物や魔獣等を狩り獲物とする狩人組合や統治者である貴族達の領兵による定期的な討伐なども行われるため、比較的住みやすい国だと言える。
周辺諸国とも良好な関係を築けていることもあり、ここ百年ほど大きな戦争もなく貴族の子息令嬢の数も多い。
そんな貴族の子息令嬢が成人前に入学を義務付けられているのがラフィール学園だ。
特にここ数年は今年最終学年になるグランデール王国の王太子殿下を初め、本年新入学される第二王子殿下と学友となるように貴族たちもこぞって子作りに励んだこともあり近年まれに見る人数になっている。
真っ白なブラウスに胸の下で紐で閉めるハイウエストのプリンセスラインのワンピースは踝まである濃紺のロングスカートで、同じく濃紺の丈の短いブレザーを羽織り本年度の入学生の証である緋色のリボンをブラウスの首もとに結ぶと、壁に掛けられた大きな鏡の前でくるりと華麗にターンを決めた。
学舎へ移動し学園の新入生が集められた一角で唯一の知り合いであるレオンハルト様を見つけ、改めて先日のお礼を告げようと声をかける。
「レオンハルト様! 先日は馬車に乗せていただきありがとうございました」
走り寄って深々と頭を下げると、なぜか辺りが騒然とし始めた。
「いや、当然のことをしたまでだ。 今日からはここにいる皆が仲間でありライバルになる、よろしくね」
「はい!」
元気よく返事をすれば、数名の男子生徒を引き連れて颯爽と去っていく。
「ちょっと貴女!」
「きゃっ!」
左肩に手を掛けられてぐいっと後ろに引かれたため、重心を崩して地面にお尻から尻餅をついた。
じんじんとした痛みがお尻と変に体重がかかって挫いた左足首、腰に広がり目が潤む。
「危ないじゃない!」
腰を擦りながら引き倒したであろう女子生徒を睨み上げる。
「礼儀作法すらなっていない田舎娘風情が殿下に話しかけるなど身の程を知りなさい」
あっという間に私と同じ色のリボンを着けた女子生徒達に囲まれてしまった。
男子生徒のネクタイと女子生徒の制服のリボンの色は学年によって決まっており、学生時代の三年間は色が変わることはない。
今年新入学の生徒は緋色のネクタイかリボンを着用することになっている。
私を引き倒し、集団で囲んでいる生徒の制服を見れば彼女達が高位貴族のご令嬢だとすぐにわかった。
リボンへ刺繍やレースを縫い付けたりブレザーにフリルをあしらったりと皆様、それぞれが制服を改造しているのだ。
数十着もの制服を所持してその日の気分でコーディネートして過ごす彼女たちの制服はキラキラゴテゴテしており、もはやゴスロリと大差ない。
おしゃれな制服は高位貴族のご令嬢のステータスなのだ。
全くなにも手を加えていない私の制服は大層みすぼらしく彼女たちの目に映るのだろう。
「助けていただいた恩人に御礼を伝えるのに田舎者は関係ありません! ……えっ、今殿下って」
反射的に反論して、令嬢の言葉の中にあった単語が記憶の片隅に引っ掛かった。
「なにを騒いでいる! 式の進行を妨げるな」
騒ぎを聞き付けた教師たちが割り込んできたことで何も無かったようにご令嬢包囲網が速やかに解かれると、無様に地べたに座り込む私の姿に自分の子供の晴れ姿を見ようと集まった新入学生徒の保護者達から小さな嘲笑が起きた。
この世界は中世ヨーロッパのような身分制度に現代の生活様式を取り込んだような世界だ。
基本が土足、絨毯を敷き詰めた廊下を靴を履いたまま移動するため、座るのは椅子やソファー、いくら使用人たちの手によって綺麗に掃除され汚れなど見えなくても、土足で穢れた床にそのまま座るなどあり得ないことだったりする。
「君、早く立ち上がりなさい」
「はい、申し訳ありません」
返事をして立ち上がり、土ぼこりで汚れてしまった制服を払うとざっと周りから離れられた。
「これだから田舎者は嫌ね」
「制服が汚れてしまうじゃない!」
そんなことを言われても、この年まで貴族のご令嬢と言うより使用人暮らしを満喫してきたものの、これでも王都産まれの王都育ちなのだ。
その持論でいったら王都は田舎と言う事になり国王陛下すら田舎者になってしまう。
前世の演歌歌手が歌っていた都会へ行く歌を思いだし、王冠を頭に乗せて牛を引く陛下の姿を想像し、あまりのミスマッチ具合に、式が始まって吹き出すに吹き出せず身悶える。
「新入生代表の挨拶、グランデール王国第二王子レオンハルト・グランデール殿下」
壇上に姿を表したのは先ほど私が駆け寄ったイケメン、そうレオンハルト殿下だ。
「第二……王子、メイン攻略対象者レオンハルト殿下……悪役令嬢アンジェリーナ・クロウ?」
ズキリと頭に激痛が走り目を閉じて痛みを受け流そうと試みる、壇上で立派に新入生代表の挨拶するその姿は二次元のスチルと同じとは思えない。
名前や髪の色や瞳の色は設定に類似している、制服のデザインはゲームのキャラクターに扮したコスプレーヤーか舞台の俳優に近い。
そう、勝っちゃんとプレイした乙女ゲームを実写化したらこんな感じの……
頭痛がひどい、纏まりそうで纏まらない思考回路が警鐘をならす。
「ちょっと貴女大丈夫? 真っ青よ」
隣にいた女子生徒が心配して声をかけてくれた。
「ありがとう、大丈……」
ふっと視界が暗転し目が覚めれば白いカーテンに囲まれたベッドの上だった。