乙女ゲームの世界に転生しましたが、攻略対象者じゃなくて初恋の彼に逢いたい
8話『どうやら乙女ゲームのヒロインだったらしい』
「知らない天井だ」
いったい何度この台詞を言うことになるんだろう、ゆっくりと身体を起こせばギシッとそれまで寝かされていたベッドが軋んだ音を立てた。
「おっ? 気がついたか?」
シャッとレールが音をたてて純白のカーテンが開かれる。
そこには白衣を纏い気だるげな様子を隠そうともしない男性教諭が立っていた。
一見紺色に見える髪は光が当たると紫色だとわかる。
緩くウェーブが掛かった鎖骨に届く髪は男性にしては長い。
眼鏡に隠された紫の虹彩を持つ瞳はまるで宝石のように潤んで見える。
はだけられた首もとから覗く男らしい喉仏も、筋ばった首から鎖骨に続くラインが男の色気を振り撒いている。
某ダンスグループのイケメン集団を彷彿とさせる彼の薄く整った唇の下に小さなホクロがあり、嫌でも口元に視線が向かう。
整いすぎた顔はさぞかし女子生徒や保護者のお母様方にモテそうだ。
「入学式の途中で倒れたんだ、ちゃんと食事はとっているのか? そんな細い腕で倒れるまで食事を抜くなんてダイエットが流行っているらしいがやりすぎだ馬鹿者」
初対面でそんな事を言われながら、私の腕を取り脈拍や額に手をあてて熱を測るなど対応をしてくれる。
「朝食はきちんと取りましたよ、丸パンを丸々一つにスープにサラダも食べました!」
子爵家で粗相をし義母から食事を抜かれたり、大量のノルマに食欲を奪われたり、量を減らされたりとしているうちに胃が小さくなってしまったらしく、寮での朝食は半分を越えた辺りで満腹になってしまった。
「肉を食え、または魚でもいい、成長期なんだもっと食べなければ嫁ぎ先もなくなるぞ」
デリカシーもあってないような暴言を吐いてはいるが、その口調とは裏腹に瞳が心配してくれているのがわかる。
「ご迷惑をおかけしました。 ユリアーゼと申します。 お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ。 バートランドだ、このラフィール学園の養護教諭をしている」
お色気担当のバートランド先生を実写化すると目の前の男性になるようだ。
勝っちゃんとプレイした乙女ゲーム、の正式名称は忘れてしまったけれどたぶんこのイケメン教諭は攻略対象者の一人だったと思う。
確かくるもの拒まず去るもの追わず、自分に落ちないヒロインに執着しあの手この手で誘惑してくる。
男女の色恋などゲームと同じ豪語する悪い大人の魅力を設定にこれでもかと盛られたイケメンホストとか夜の覇王が似合うアダルト担当、ゲームではその口説き台詞に私は赤面し、勝っちゃんはうげぇと鳥肌をたてていた。
攻略対象者だとしても硬派な勝っちゃんとは反対の位置にいる人物だ。
ぶつぶついいながら、何かを取りに行き無地のカップを持って戻ってくるとそれを無言で押し付けてきた。
カップには温められたミルクが入れられており、蜂蜜の甘い香りが鼻腔を擽る。
「それを飲んだら寮に戻って寝ろ」
ポンポンと馴れた様子で頭を軽く叩かれたのでとりあえずベシリとその馴れ馴れしい手を叩き落とす。
驚いた様子で自分の手と私を何度も見比べて絶句するバートランド先生は無視する。
冷えた手を温めてくれるカップから残っていたミルクをイッキ飲みする。
「ごちそうさまでした!」
にっこりと微笑み空になったカップをバートランド先生へ突き返す。
「おっ、おう」
私の勢いにタジタジしているけど、気にしない。
いくらイケメンだからって何をしても許されるとは限らないのだ。
ただしイケメンに限るなんて迷言が誠しやかに囁かれていたけれど、イケメンだろうが誰だろうが、初対面の人に馴れ馴れしく頭を撫でられても私は気持ち悪い。
撫でてほしい相手はただひとり、勝っちゃんだけなんだから!
「お世話になりました! 寮へ帰ります!」
寝苦しくならないように誰かが脱がせてくれたであろう制服のブレザーを掴み、黒いローヒールのフォーマル靴に足を入れて勢いよく立ち上がる。
バートランド先生が勝っちゃんではないと思う。
それならバートランド先生と仲良くする必要はないもんね!
「さようなら!」
手を振って医務室を出るとウキウキと夕日のオレンジ色に照らされた廊下を玄関に向かって歩いていく。
ここが本当に乙女ゲームの世界だと言うなら、勝っちゃんを見つけるのは案外簡単かもしれない。
だって勝っちゃんはわざわざ魂を異世界へ招かれるほど優秀らしいので、モブ転生とは考えにくい、なら攻略対象者やネームドモブの可能性が高い。
私が会いたいのはイケメン攻略対象者じゃなくて勝っちゃん。
「いくらヒロイン役だとしても三年しか猶予はないんだもの、可能性が低い人にいつまでも構ってなんかいられないもんね!」
胸の前で両手の拳をぎゅっと握り込む、今私がすべきことは出来るだけはやく勝っちゃんを見つけること、そのためにこの学園で目立つ男子生徒の情報を集めて、話をする。
「頑張るぞ! うん!」
これからやるべきこと、しなければいけないことの多さに不安がないかと言われたらあると断言できるけど、今は何よりも期待の方が大きいのだ。
目標に向かって前向きに一歩ずつ歩けると言う幸せで、上手く行くかわからな小さな不安を圧し殺し前を向く。
「待っててね、※※※※※(勝っちゃん)」
「知らない天井だ」
いったい何度この台詞を言うことになるんだろう、ゆっくりと身体を起こせばギシッとそれまで寝かされていたベッドが軋んだ音を立てた。
「おっ? 気がついたか?」
シャッとレールが音をたてて純白のカーテンが開かれる。
そこには白衣を纏い気だるげな様子を隠そうともしない男性教諭が立っていた。
一見紺色に見える髪は光が当たると紫色だとわかる。
緩くウェーブが掛かった鎖骨に届く髪は男性にしては長い。
眼鏡に隠された紫の虹彩を持つ瞳はまるで宝石のように潤んで見える。
はだけられた首もとから覗く男らしい喉仏も、筋ばった首から鎖骨に続くラインが男の色気を振り撒いている。
某ダンスグループのイケメン集団を彷彿とさせる彼の薄く整った唇の下に小さなホクロがあり、嫌でも口元に視線が向かう。
整いすぎた顔はさぞかし女子生徒や保護者のお母様方にモテそうだ。
「入学式の途中で倒れたんだ、ちゃんと食事はとっているのか? そんな細い腕で倒れるまで食事を抜くなんてダイエットが流行っているらしいがやりすぎだ馬鹿者」
初対面でそんな事を言われながら、私の腕を取り脈拍や額に手をあてて熱を測るなど対応をしてくれる。
「朝食はきちんと取りましたよ、丸パンを丸々一つにスープにサラダも食べました!」
子爵家で粗相をし義母から食事を抜かれたり、大量のノルマに食欲を奪われたり、量を減らされたりとしているうちに胃が小さくなってしまったらしく、寮での朝食は半分を越えた辺りで満腹になってしまった。
「肉を食え、または魚でもいい、成長期なんだもっと食べなければ嫁ぎ先もなくなるぞ」
デリカシーもあってないような暴言を吐いてはいるが、その口調とは裏腹に瞳が心配してくれているのがわかる。
「ご迷惑をおかけしました。 ユリアーゼと申します。 お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ。 バートランドだ、このラフィール学園の養護教諭をしている」
お色気担当のバートランド先生を実写化すると目の前の男性になるようだ。
勝っちゃんとプレイした乙女ゲーム、の正式名称は忘れてしまったけれどたぶんこのイケメン教諭は攻略対象者の一人だったと思う。
確かくるもの拒まず去るもの追わず、自分に落ちないヒロインに執着しあの手この手で誘惑してくる。
男女の色恋などゲームと同じ豪語する悪い大人の魅力を設定にこれでもかと盛られたイケメンホストとか夜の覇王が似合うアダルト担当、ゲームではその口説き台詞に私は赤面し、勝っちゃんはうげぇと鳥肌をたてていた。
攻略対象者だとしても硬派な勝っちゃんとは反対の位置にいる人物だ。
ぶつぶついいながら、何かを取りに行き無地のカップを持って戻ってくるとそれを無言で押し付けてきた。
カップには温められたミルクが入れられており、蜂蜜の甘い香りが鼻腔を擽る。
「それを飲んだら寮に戻って寝ろ」
ポンポンと馴れた様子で頭を軽く叩かれたのでとりあえずベシリとその馴れ馴れしい手を叩き落とす。
驚いた様子で自分の手と私を何度も見比べて絶句するバートランド先生は無視する。
冷えた手を温めてくれるカップから残っていたミルクをイッキ飲みする。
「ごちそうさまでした!」
にっこりと微笑み空になったカップをバートランド先生へ突き返す。
「おっ、おう」
私の勢いにタジタジしているけど、気にしない。
いくらイケメンだからって何をしても許されるとは限らないのだ。
ただしイケメンに限るなんて迷言が誠しやかに囁かれていたけれど、イケメンだろうが誰だろうが、初対面の人に馴れ馴れしく頭を撫でられても私は気持ち悪い。
撫でてほしい相手はただひとり、勝っちゃんだけなんだから!
「お世話になりました! 寮へ帰ります!」
寝苦しくならないように誰かが脱がせてくれたであろう制服のブレザーを掴み、黒いローヒールのフォーマル靴に足を入れて勢いよく立ち上がる。
バートランド先生が勝っちゃんではないと思う。
それならバートランド先生と仲良くする必要はないもんね!
「さようなら!」
手を振って医務室を出るとウキウキと夕日のオレンジ色に照らされた廊下を玄関に向かって歩いていく。
ここが本当に乙女ゲームの世界だと言うなら、勝っちゃんを見つけるのは案外簡単かもしれない。
だって勝っちゃんはわざわざ魂を異世界へ招かれるほど優秀らしいので、モブ転生とは考えにくい、なら攻略対象者やネームドモブの可能性が高い。
私が会いたいのはイケメン攻略対象者じゃなくて勝っちゃん。
「いくらヒロイン役だとしても三年しか猶予はないんだもの、可能性が低い人にいつまでも構ってなんかいられないもんね!」
胸の前で両手の拳をぎゅっと握り込む、今私がすべきことは出来るだけはやく勝っちゃんを見つけること、そのためにこの学園で目立つ男子生徒の情報を集めて、話をする。
「頑張るぞ! うん!」
これからやるべきこと、しなければいけないことの多さに不安がないかと言われたらあると断言できるけど、今は何よりも期待の方が大きいのだ。
目標に向かって前向きに一歩ずつ歩けると言う幸せで、上手く行くかわからな小さな不安を圧し殺し前を向く。
「待っててね、※※※※※(勝っちゃん)」