もしも、私の背中に翼があったなら。(短編)
朝、目が覚めると
いつも起きる時間をとっくに過ぎてしまっていた。
『もう昼前……』
私は慌てて起き上がり部屋の扉を開けた。
リビングには向井さんがいない代わりに置き手紙と合鍵があった。
“今日は俺の家でゆっくりしといた方がいいよ。
店長には俺から休みだって言っておくから。
もし出かけることがあるなら、合鍵使っていいからね。
食べられそうだったら、食べてね。”
テーブルの上には
スクランブルエッグやサラダが置かれていた。
向井さんはどこまで優しい人なんだろう……
嬉しくて涙が出た。
りょうがいる家に帰らず、彼氏以外の男の人の優しさに
甘えて頼ってしまった自分。
ずっと向井さんといられたら、とよからぬ理想を描く気持ちと
りょうへの申し訳ない気持ちが
交互に押し寄せた。
用意されていたご飯を残さず食べて、
食器を洗い終えたあと
私は
マンションを出た。