もしも、私の背中に翼があったなら。(短編)
新しい家に住み始めて1ヶ月が過ぎた、ある夜。
「美沙ちゃん、こっちおいでよ。」
お風呂から出た私を呼ぶ向井さんはカーペットの床の上に足を広げて座っている。
恥ずかしがりながら
向井さんの前に座ると
後ろからぎゅっと抱きしめられる。
『向井さんごめんね?』
向井さんは不思議な顔で後ろから私を覗きこんだ。
『私のせいで、向井さんまで一緒に店移動になって。引っ越しまでしてくれて…』
俯く私。
「美沙ちゃん、顔をあげて。俺は何も気にしてない。美沙ちゃんがいるから幸せだよ。」
私が顔だけ振り向くと、向井さんは笑っていた。
『私も…幸せだよ。』
向井さんは顔を近づける。
向井さんのキスは優しくて…
心地よい。
だけど
ふと、りょうに乱暴にされたことが頭に蘇って
私は唇を自分から離してしまった。