最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

 朝からまた余計な事を考えてしまい『仕事に集中しなきゃ』って自分に言い聞かせながら目を閉じ、首を数回横に振って邪念を消そうとし気を取り直してパソコンを開くと、そのタイミングで《《ある人物》》がこちらに近付き声を掛けてきた。

「おはようございます、棗さん」

 内心『うわ、最悪』って嘆きながらも恐る恐る顔を上げ、デスク越しに笑みを浮かべて立っている笑茉莉愛ちゃんと顔を合わせた。

「おはよう……」

 あー……気まずい。非常にやりづらい。
 自分の中での精一杯の笑顔を繕って極力不自然さを出さないよう努力しながら挨拶を交わすと、彼女は笑顔のままこの場から離れようとせずまだ話を続ける。

「昨日はお疲れ様でした。とっても楽しかったです」
「そう……それなら良かった……」
「はい♪ でもまさか棗さんと桐葉さんが一緒に帰るとは思いませんでしたぁ」

 ニコやかに嫌味たっぷりのセリフには悪意しか感じない。
 相槌もほどほどに、横目で時計を気にして始業時間を心待ちにするなんて初めて。

 昨晩の桐葉さんに対する行動と言い、茉莉愛ちゃんが何を考えているのか何がしたいのかよくわからない。
 私への嫌がらせ? それともまさか桐葉さんを口説きたかった? どちらにしろ普段と違いすぎて更に警戒心が産まれたのは間違いない。

 少しの不信感はあったけれど、でもまだそれは序章に過ぎなかった――――
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