最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
下の名前で呼んだ事がなかったから、すっかり忘れてた。もちろんそんなこと失礼すぎて本人には言えないよ? 言ったら怒られそう。それこそ『職場の人間の名前を忘れるとか、そうやってお客様の事も覚えないのか!』とか説教が始まりそうだし。
私が覚えていなかったのは桐葉さんの名前だけ。まぁそんな事を言ったらもっと叱られること間違いない。
彼が担当したお客様かもしれない。と、最初はそう思った。でも待って? 下の名前で呼ぶ仲って事は凄く親しい関係なのかも。
そう考えたものの、私は念のため他のお客様と同様な態度で対応する事に。
「お名前を頂戴しても宜しいでしょうか?」
と、あまり不自然ではない形で訊ねてみたものの彼女には響かなかった。
「個人情報だから言いたくありません」
冷たく突き放す返しのアタックが結構強めで唖然とした。
確かに個人情報だけども……名前を聞かないと本人に伝えられないでしょ。誰だかわからないのに彼に何て声を掛ければいいの。『誰か知らないけどお客様です』って? それこそあの人の事だから会わないと思う。
ツッコミどころは多々あるけれど、強い事を言う訳にはいかないからグッと胸の中にしまって私は聞き方を変えて再度訊ねてみる事に。
「では支配人とのご関係を伺っても宜しいでしょうか?」
するとその女性は食い気味に答えてくれた。
「”彼女が会いに来た”って言えばわかるわ」