最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

 《《彼女》》という、その単語に妙に反応し無意識に眉がピクリと動く。

 なんだ……桐葉さん、女性が苦手って言ってた割にいつの間にか彼女作ってんじゃん。もしかして克服出来た? でもいつからいたんだろ。変わった様子はなかったと思うから全然気付かなかったけど、隠しているのか……

 疑問に思う事も多々あったけれど、これ以上この人に質問したところで答えてくれないのは目に見えていたから打ち合わせルームへと案内し、『少しお待ちください』と伝えて私は奥へと下がった。

 今日の桐葉さんは朝から事務所で眉間に皺を寄せながらパソコンと向き合っていたけれど、確かこの時間は式を行う会場で仕事をしているはず。2週間後のブライダルフェアに向けての準備に追われていて忙しそうだから接客はしていないと思うんだけど……
 あ、いたいた。
 会場の隅で他のスタッフと何やら真剣な話をしている彼は、怖い顔で腕を組み”話し掛けるなオーラ”全開。それを知りながらも私は声を掛けた。

「お話し中すみません。支配人、彼女さんが会いに来ていますよ」
「は? 彼女?」

 しかし桐葉さんは身に覚えがないようで、不機嫌に『何言ってたんだ?』とまるで他人事。

「だから彼女ですよ。名前を聞いても教えてくれなかったけど」
「だから何の話だ。俺に恋人はいない。そして名前を聞け」

 ダメだ。これだと埒が明かない。

 
 






< 218 / 272 >

この作品をシェア

pagetop