最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

 だから呼び出されるたび別の意味でドキドキする。 今日は何を言われるんだろうって……

 それにここのところ、特に《《あの人》》との対応の差が歴然としているし───


「真夜、明後日必要な書類に……っ!?」

 手元のファイルに目線を落としながら扉を開けて入ってきた人物は、顔を上げ私の存在に気付くなりハッと驚き明らかな動揺を見せる。

「い、いたのか、棗……」
「……はい、支配人」

 そう。《《あの人》》というのは、桐葉さんの事。

「待っていたわよ、李月!」

 私と話す時の暗い表情と重たい口調とは違い、声のトーンとテンションがパッと一気に上がりガラリと表情が一変する杉森さんの態度は喜びを表していて、とてもわかりやすい。
 『待っていた』って、この時間にここに桐葉さんが来る事を最初から知っていた口ぶり。タイミングが良すぎるし、もしかしたら私と鉢合わせさせようとしていたのかと、悪い意味で捉えてしまう。

「棗さん、ちょっと待っていてくださるかしら?」
「え、えぇ……」

 さっきまでの嫌悪な態度ではなく、急にこちらに笑顔を向け満面の笑みを見せる杉森さんに返って不気味さを感じる。
 この人、2つの顔でも持っているの?

 気のせいなのか意識してなのかわからないけれど、2人は私に背を向けるように寄り添って話をしている。聞こえてくる会話から察するに、どうやら仕事の内容みたい。
 それなら何もそんなコソコソ隠れるようにして話さなくても良いのでは……?
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