最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

 それは少し、桐葉さんにしては珍しい言い方。
 『俺だって……』と話始めようとするのを、耳を傾けながら私はグラスに口を付けた。

「そういう経験はある。昔の事だが、当時付き合ってた彼女が――」
「か、彼女っ!?」

 飲んでいたお酒を吹き出しそうになるのを堪えつつ、思わず口を挟んで中断してしまった。
 ビックリした。さっきよりももっと、別の意味で。

「なんだ? そんなに驚く事かよ」
「そりゃ驚きますよ。だって女嫌いなんですよね? そんな人に彼女がいたとか、矛盾してる……」
「嫌いなわけじゃない。苦手なだけだ。その《《彼女》》のおかげでな」

 そう言って伏し目がちにロックグラスを軽くまわし、氷が当たって響く音に静かに耳を傾けて物思いに更けている様子。
 元カノが原因で女性が苦手になっ過去があるなんて。訳ありを聞いていいのか躊躇ったけど、興味本位も含めて気になってしまい思い切って尋ねてみる事に。

「何かあったんです……?」

 すると桐葉さんは揺らしていたグラスの手を止め、『はぁ……』と短めの溜め息を漏らして私に話始めた。

「俺が25の時だ。仕事も慣れて上司の立場で後輩を指導する側になった頃、新入社員としてある女性が入社したんだ」
「それがその彼女……?」
「あぁ。彼女は専門学校を卒業したばかりで若かったが、年齢のわりに大人びていて綺麗な人だった」
< 78 / 272 >

この作品をシェア

pagetop