最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
次の電車までまだ時間があるし、ゆっくり行っても間に合いそう。
雨のなか傘を差したまま橋の真ん中でふと立ち止まり、ポケットから名刺入れを取り出してつい物思いに耽ってしまう。
「初めて貰ったプレゼントだったんだけどな……」
当時、彼が言ってた。『この仕事は営業も大事になるから』って。だからこれを選んでくれて、それが凄く嬉しかった。嬉しかったのに――
「あー……ダメだな。仁菜の言う通り、思い出を引きずりすぎて前に進めなくなってる」
名刺入れをギュッと握りしめながら俯いて自己嫌悪に陥っていると、鞄の中のスマホが微かに振動している事に気がついた。
着信の相手は桐葉さん。
「はい、棗ですが……」
『お前か! 俺だっ! 聞きたい事がある!』
電話に出た途端、《《誰宛》》で誰からか名乗りもしないまま、慌てた声だけが耳にキーンと響く。
「いったいどうしたん―――」
『18時からの打ち合わせに使う資料にミスがあった! 今わかる事を教えろ!』
「嘘……ミス、ですか。今から会社に戻るんですが、それだと間に合いませんか?」
『無理だ! 先方から今電話が入ってるところなんだよ!』
どうやら私が外回りをしている間に社内ではトラブルが発生していたらしく、支配人が私の代わりに対応してくれているらしい。
「わかりました! 私がわかる範囲で伝えますっ」
彼の焦りに引っ張られるように、私も気持ち焦ってしまう。