最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

 彼の席で説明をするも、ご機嫌がナナメなのがわかる。眉間に皺を寄せ、腕を組みながら指を肘にトントンとして明らかに怒っている。その前でまるで説教されている子供みたいに小さくなる私。まぁ、彼が怒るのも無理はない。仕事のトラブルがあって大変な時に、私までトラブルを持ち帰ってきたんだから。

「まったく。どうして名刺入れを川に落とす《《事故》》が発生するんだ」
「それは……」

 責められているこの状況ですら言えない。事故と言えば事故だけど、『元彼を思い出して物思いに更けていたら手が滑りました』なんて報告は絶対に無理。それこそ『仕事中に何しているんだ!』って怒鳴られるのがオチだ。
 正直に伝えるのを避け他の言い訳を考える間、余計な事を口走らないように声を出すのすら控えていると、桐葉さんは諦めたのかめんどくさくなったのか溜め息を1つ吐いた。

「まぁいい。とにかく名刺がないのは社会人として問題だ。早急に注文しておくが、予備はあるんだろうな」
「一応、数枚なら……」

 確かに”いざという時のため用”でデスクの引き出しに予備として入れてはあったけれど、まさか今がその時だなんて情けなさすぎる。

 ひとまず桐葉さんにバレないように発注は任せられたけれど……
 とは言え、名刺は個人情報だし誰かに拾われないとも限らない。色んな意味で失った物の代償は大きい。


 
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