ハートの確率♡その恋は突然やってきた
「エリカさん、ちょっと聞いていいですか?」

「たくさん聞いていいよ、なぁに?」

「あのですね。エリカさんってこんなに可愛くて、いい人そうなのに。その……どうしてこんなことをしてるのかなって」

(――売りをしている私のことを知りたいんだ、へぇ)

「ウソかホントか信じるのはケンジさんの自由だけど、それでも知りたい?」

「はい。すみません、興味があって」

 ケンジさんは握りしめている私の手の甲を、労わるように撫で擦る。わざわざ気を遣って、そんなことをしなくてもいいのに。

 そんな優しいケンジさんに苦笑いしながら、元彼に借金を背負わされたことや、返済があと50万円弱という話をしてあげた。

「私の人生が元彼のせいで一気に変わっちゃったけど、こうやっていろんな人と遊べるのも楽しいし、悪いことばかりじゃなかったよ」

 私なりに、ごく自然に明るい声で告げたというのに、ケンジさんはいきなり立ちあがって、空いていた私の片方の手もぎゅっと掴んだ。

「ケンジさん?」

「エリカさん、残りの50万円を俺が全額支払います! そうすればお互い幸せになれるんだから!」

(お互いが幸せになれるって、いったいどういうことなんだろう?)

「ちょっと待って。いきなりそんなことを言われても困る……」

「俺自身、個人的な事情があって、どうしても手元にお金を残しておきたくないんです。その事情は、ちょっと言えないんですけど……。でもエリカさんのために使うことができるなら、俺は本望ですっ!」

 鼻の穴を広げて興奮する様子に、困り果てるしかない。

「……ケンジさんってば50万円で、私の人生を買おうとしてます?」

「へっ!? エリカさんの人生を買う?」

「そう。50万円で私を買って、あわよくば結婚しようと企んでいたり――」

 猜疑心を含んだ眼差しを注いだら、私の手を掴んでいる彼の手が見る間に冷たくなっていった。

「結婚しませんっ! 絶対にそんなつもりで言ったんじゃないです、信じてくださいっ!!」

 掴んでいた私の両手を放り出すように投げて、違う違うと激しくジェスチャーした。

「だって50万円って、それなりに大金だよ。逢ったばかりの私にあげるなんて、普通は簡単に言えないでしょ?」

「すみません。自分の事情が先行してしまい、つい……。あのですね、うーんと、期限付きでお付き合いしてくださいませんか? そうだなぁ、2週間くらいがいいか。ちょうど月末なるし、お互いに切り替えやすいかなぁと」

 ――たった2週間、この人と付き合っただけで50万円が手に入るなんて、実際夢みたいな話だ。

「お支払いについては、1週間ずつで25万円を払う形でいいですか?」

「ケンジさんが良ければ……」

「それとですね、俺と付き合ってる最中は、他の男性といかがわしい行為をしないというのが条件です。浮気をした時点で、即この契約はナシってことで了承してください」

(浮気なんてするもんですか! バカな元彼じゃあるまいし)

「分かった、その条件を飲んであげる。登録している出会い系サイトを、今すぐ退会するね」

 スマホをカバンから取り出してケンジさんが見つめる中、登録していた数か所のサイトをさくさくっと退会した。

「エリカさんって、本名じゃないんですね。たくさん名前が――」

 一番最後のサイトを退会している最中にかけられた言葉に、苦笑いを浮かべた。

「本当の出逢いを求めるなら本名を出すかもしれないけど、こういうサイトでは大抵、違う名前を使うんじゃないかな」

「俺、本名です……。柳谷健司(やなぎや けんじ)」

 ポツリと告げられたケンジさんの本名に、自分も本名を明かさなければならないなと覚悟した。
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