視えるだけじゃイヤなんです!
「ん? ああ、なんていうんだろう。探知機みたいなものかな」
「探知機?」
「そう。人の心は広いから。目当てのモノが近づくと、水が教えてくれるんだ」

 ……ふうん。なんだか、あたしはちょっとだけ怖くなる。
 いったい、何するんだろう。痛かったりしたら結構イヤなんだけどな。

 あたしの緊張に気づいたのか、透くんは安心させるようにニコッと笑った。

「今から僕がやることは、ここみちゃんの心にちょっと触って、ちょいちょいっていじる作業なんだ。痛いことはしないから、安心してね」

 結構さらっと怖いこと言ってるような気がするけど、あたしは流した。正直、それどころじゃなくらい緊張している。
 うん、痛くなければ、いいや。

 昭くんが刀を引き抜き、あたしの周囲を何度かなでるように動かした。抜き身の刀だ。怖いはずなのに、あたしはなんだか不思議な気持ちになる。昭くんが刀を動かすたびに、空気が少しずつ澄んでいく。まだ少し苦しかった息が、楽にできるようになる。

 透くんは目を閉じて、口の中で何かもごもごと呟いている。日本語じゃない。聞きなれないイントネーションの言葉が、柔らかな声に乗せられてあたしの耳に届いた。
 透くんは目を開くと、片方の手袋を外してひざ立ちになる。そのまま、す、とあたしの額に指先を当てた。

 ひんやりした指の感触。
 ……怖い。
 あたしはすがるように透くんを見た。透くんは「大丈夫だよ」というように、目を細めて笑う。

 ガラス皿の水が、細かくふるえはじめた。その水に反応するように、あたしの体もじんわり熱くなる。
 その熱さが体中をかけめぐり、だんだん額に集まってくる。透くんの指が当たっている場所に、熱が集中して――始まったときと同じように、じんわりと熱が冷めていった。

「はい、完了」

 透くんはあたしの額から指を外すと手袋をはめた。そのままあたしの頭をぽん、とたたく。
「よくがんばりました。お疲れさま」
「――……うん」

 なんだかあっけなかった。これで本当にお化けを視なくてすむんだろうか。

「じゃ、ここみちゃん。はい、お狐さまを作ってください」
 唐突に、透くんがあたしの前に手を突き出した。中指と薬指を折りたたみ、親指とくっつける――影絵でよくやる、狐のポーズだ。

「で、これを、こうして、こう」

 透くんは両手で狐を作った。くるっと手首をねじり、狐の耳、人差し指と小指を左右で合わせる。そのままぱっと閉じていた中指と薬指を開いて、残った親指でその二つの指をぐっとおさえた。

「こうすると、中央に穴があくでしょ?」
「……うん」
「これが、狐の窓。さ、ここみちゃんもやってみて」

 なにがなんだかわからないけど、とりあえず言われた通りにやってみる。うわ、けっこうむずかしい。指がつりそうになりながらも、なんとかその『狐の窓』を作ることに成功した。

「できた……けど」

 で、これが、なに?
 問いかけの視線に応えるように、透くんがにっこり笑う。

「この窓をね、のぞくと。お化けが視えます」
「――は?」
「うん、だからね、この窓をここみちゃんがのぞくと、そのとき限定でお化けが視えます!」

 あたしは無言で手を元に戻した。
 決めた!
 あたし、ぜったいこの窓、作らない!
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