視えるだけじゃイヤなんです!
コノ子ヲ見ツケテ



 白と、黒の世界。

 窓の向こうがわは、まるでモノクロ写真の中のようだった。
 風景はいっしょ。でも、視るものすべてが白と黒に変わってる。

 よかった。あたしはちょっとだけ安心する。

 ホラー映画とかだと、こういうときにバーッとお化けが出てくることがあるから、そうだったらどうしようかなって思ってたんだ。

「何か、視えるか?」
 昭くんが少しだけ緊張したような声でそう言った。
「……ううん、視えない。ぜんぶ白黒になってるくらいかな」
 ん?
 あたしはちょっと首をひねった。
「待って。あの……さい銭箱の横に、なにか、いる」

 よく見ると、さい銭箱の横に人影が見えた。
 すごく小さい。まだ小学校にも上がっていなさそうな小さな女の子だ。さい銭箱と同じくらいの身長で、不安そうにあたりを見回している。ダボッとしたトレーナーに、花柄のスカートがかわいかった。
 あたしはもっとよく視ようと目を細める。

「えっ……」

 子どもの首から下が、より濃い黒に染まっている。よく見たら、トレーナも、その下のスカートも黒ずんでいる場所があった。

 あれ、もしかして……血?
 あんなにたくさん……。

 その女の子の後ろに、ぼんやりとした影が視える。
 黒白の世界なのに、その影はうっすらと金色に光っていた。女の人のようだ。不思議と怖さは感じなかった。その女の人から感じられるのは、温かさ。そして、怒り。

「あ……!」

 女の人が、こちらを見た。――目も鼻もない、ただの影なのに、あたしを見た、としか言えなかった。強い視線を感じて、あたしはとまどう。どうしよう、狐の窓、解いた方がいい?

 女の人が、すっと手をあげた……次の瞬間。
 あたしの脳内に、言葉がひびいた。


 ――コノ子ヲ、見ツケテ……。

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