視えるだけじゃイヤなんです!
「おそらく、何らかの理由で子どもの霊が迷い込んでしまったのだろう。あの神社の神は、子どもを守るという性質を持っている。だから、その子を守ることに必死になり、力をそこに使った結果……神社全体の守護力が落ちてしまったんだろうな」
「でも……守るって、なにから?」

 あたしは首をかしげた。

「霊は、人の形をとどめているうちはまだいい。その霊が囚われている場を解体さえすれば、あっけなくあの世に旅立つことができる。問題は……霊は時間がたつにつれて、化け物に変じることがある、ということだ」
「化け物……」
「そう。そうなると、問答無用で人をおそうようになる」

 あたしはあのクモみたいな男を思い出す。たしかに、アレはもう人の形を留めていなかった。あのときの恐怖がよみがえって、あたしはぶるりと体をふるわせる。

「あの神社の神は、子どもの霊が化け物にならないように守っているんだ。だからこそ怒ってもいる」
「怒っている……」

 昭くんはこくりとうなずいた。

「女の人は、『この子を見つけて』と言ったんだな?」
「あっ、うん……そう。多分」

 言ったというよりも、頭の中に直接声がひびいた感じだったんだけど。

「ということは、この神社の敷地内に、その子どもが『いる』はずだ」

 えっ。
 あたしはぎょっとする。
 その子どもって、もう霊になってるんだよね? その子が『いる』っていうのは、つまり……。

「もしその子が『いる』としたら、人目のつく場所ではぜったいにない。気づかれにくい場所に『いる』はずだ。そして神社の敷地内で条件に当てはまる場所は……」

 あたしはごくり、と喉を鳴らす。
 そうか、森、だ。


 ◆◆◆


 森の入り口で、あたしは狐の窓を組んだ。
「窓をのぞくときは、意識を集中させるんだ」
「集中……」
「他のものには一切かまうな。その子どもの姿だけを思い浮かべて、その子を探すと強く念じればいい」

 他のものには……。その言葉がひっかかって、あたしは後ろに控えている昭くんに声をかけた。

「あ、あのさ」
「なんだ?」
「他のものには……って」
「今までの話聞いてたか? この神社には良くないものも集まりつつあるんだ。他の霊の一人や二人、いるに決まってるだろ」

 ああ、やっぱり。あたし、泣きそうになってきた。

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