視えるだけじゃイヤなんです!
 しかたない。今回だけだもん。この『仕事』が終わったらもう二度と使わないんだから。

 あたしは覚悟を決めて、狐の窓をのぞき込んだ。
 白と黒の世界。そしてそこにうごめく……。

「やだ!」

 あたしは思わず窓を解いてしまう。

「一人や二人なんてもんじゃないよ!? うようよいるんですけど!」

 足の折れた人。首から上がない人。一見元気そうな人もいれば、見るからにお亡くなりになっている人もいる。

「そりゃいるだろうな。俺でもわかるくらい、あちこちに気配を感じる」
「やっぱり!?」
「だからこそ、早く神社を元の状態に戻さないといけないんだ。この数の霊が化け物になったら、それこそお手上げだ」

 あたしはぐっと言葉を飲みこんだ。……確かに。うようよいるこの人たちが、みんな昨日のクモ男みたいになったらそれこそ大惨事だもんね。

「さっきも言ったけど、他のものに気を囚われるな」
「でも、もしおそってきたら……」
「化け物になっていないなら、余程のことがない限り大丈夫だ。それに」

 昭くんは腰に差している刀を示す。

「万が一何かあっても、これがある。ちゃんと守るから、安心しろ」
 そう言って、昭くんは唇のはしでくすりと笑った。その笑みにあたしはちょっとだけ勇気が出る。

「よし……」
 今回だけ。今回だけだもん。
 あたしはもう一度、狐の窓をのぞいた。

 白と黒の世界。うごめく霊たち。えっと、それでどうやって探せばいいんだっけ。
 あたしはさっき見た、あの小さな女の子を思い出す。
 トレーナーに花柄のスカート。まだあどけない顔をした、幼稚園くらいの女の子……。

 ふと、あたしの頭の中に赤い光が走った。
 目の前の白黒の風景に、別の風景が重なってみえる。

 これは……森の奥?
 あたしが石をさわり、クモ男におそわれた社が視える。その後ろに……何かが視えた。

 女の子だ。まだ生きてる。手足をふりまわして、何かから逃げようとしている。
 その女の子の体を、力ずくで押さえつけている……人。
 女の子は必死に、何度も何度も手を宙に伸ばす。

 待って、これ……このまま視たくない。だってあの女の子は、もう死んでるんでしょ!?
 じゃあ、今あたしが視てるこの光景……これは、もしかして……。

「やだ……!」

 目の前が真っ赤に染まった気がして、あたしは手をふり払うように狐の窓を解いた。

 息が苦しい。吸っても吸っても息ができない。足が震えてる。涙がぼろぼろ出てきて、止めることができなかった。

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