視えるだけじゃイヤなんです!
「……おいしい!」

 フルーツがさっぱりしてる。カスタードクリームの甘さもちょうどよくて、タルト部分もサックサク。落ち込んでた気持ちがぐんぐん前向きになっていく。

「いい顔。嬉しいわ。それでこそ作ったかいがあるものよ」

 覚さんが机にほおづえをつきながら嬉しそうに笑う。

「えっ、これ手作りなんですか!?」
「そうなの。アタシ、料理やお菓子作りがオシゴトなのよ」

 透くんはチーズケーキをつつきながらくすくすと笑った。

「よかったね、兄さん」
「ええ。ここみちゃん、お腹空いたでしょ。たくさん食べてちょうだいね」

 あたしは感心しながらもぐもぐとほおばった。うん、ほんとにおいしい……!

「でも、よかったわ。思った以上にここみちゃん、力との相性がいいみたい」
 あたしは目をまたたかせる。
「相性?」
「そう。なれない人が狐の窓を使うとなると、へとへとになるものなのよ。でも、少なくともここみちゃんは自分の足で立ってここまで歩いてきたでしょう? きっと相性がよかったのね」

「それは、俺もそう思う」
 客間の入り口から、ぬっと昭くんが現れた。
「昭! お帰りなさい!」
「兄さん……来るなら来るって連絡しろよ」
「したわよ、透に!」
 覚さんはくちびるをとがらせて文句を言った。

「昭も、相性がいいって思うんだ」
 透くんがちょっとだけ真剣な顔でたずねる。

「ああ。力を意識的に使うのは初めてのはずなのに、あっという間に使いこなしている。霊視だけじゃない。千里眼もだ」
「まあ! 千里眼も!?」

 目をかがやかせる覚さんに、あたしは首をかしげた。千里眼……って、遠くのものを見ることだよね?
 言われて初めて気づいたけど、確かにあたし、森の入り口で女の子の居場所を当てたんだよね。そっか、あれが千里眼なのか。

「じゃあ、もしかしたら訓練しだいではアレも使えるかもしれないわね」

 覚さんはチョコレートケーキを切り分けながらふふふ、と笑った。

「アレ?」
「ここみちゃん、ちょっとアタシに狐の窓を使ってごらんなさい」
「へっ」
「大丈夫、怖いものは見えないから」

 言われて、あたしはおそるおそる手を組み、窓をのぞいた。

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