視えるだけじゃイヤなんです!
「……え?」

 なんだか、やな感じ。
 あたしは思わず立ちすくむ。

「ここみ?」
 咲綾がくるりとふり返った。
「どした? もしかして、また立ちくらみ?」

 チリッと、赤い光がまたたく。
 この予感を無視しちゃいけない。でも、咲綾に心配はかけたくない。
 あたしはひきつりながらもなんとか笑いを浮かべる。

「大丈夫」
「ね、ここみ、こないだからなんか変だよ? 体の調子、どっか悪いの?」
「……ううん、本当に大丈夫。ちょっと夏バテ、かな?」
「それならいいんだけど、無理しないでね」
 咲綾は心配そうに首をかしげた。
「とりあえず、学校、行こっか。もしキツかったらすぐに言ってね」
「うん、ありがとう」

 咲綾はふたたびくるっと体を回転させて、あたしの前を歩く。
 あたしの頭の中で、昭くんの昨日の言葉がぐるぐると回っていた。

 ――視るのと感じるのはまた別な話だからだ。

 つまり、今のあたしのこのイヤな感じは、もしかして。もしかしたら。
 どうしよう。

 あたしは迷った。咲綾の髪の毛が、制服の背中で左右にゆれている。その咲綾から感じるイヤな予感。

 あたしは息を深く吸う。
 もう使わないって決めたけど、でも、この予感は無視できない。

 咲綾に気づかれないように、あたしは手をサッと組んだ。
 そして窓をのぞき――悲鳴を飲みこんだ。

 白黒の世界に、咲綾の後姿が映っている。その背中にべっとりと張りついた真っ赤な血。ずっとモノクロに視えていたはずなのに、なんで……!?

 ――死ネ。

 えっ!?

 チカッという赤い光が、あたしの頭の中で弾ける。
 次の瞬間。


 咲綾の体がぐしゃっとつぶれた。
 飛び散った血が頬にかかり、あたしは……。

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