視えるだけじゃイヤなんです!


「ここみ……!? ここみ!!」
 肩を前後にゆすられて、あたしはハッと目を開けた。
 目の前には咲綾の顔がある。眉をよせて、心配でたまらないという顔であたしに必死に呼びかけている。

「さあ……や?」
「ここみ! 大丈夫!?」

 あたしは周囲を見渡した。
 通学路だ。さっきと変わらない。その道の真ん中で、あたしは座りこんでいた。

「咲綾、あたし……」
 咲綾は半泣きの表情であたしに抱きついた。
「びっくりした……いきなり叫んで座りこんじゃうんだもん。どうしようかと思った……!」

 そっか、あたし、狐の窓を使って、そのまま気を失っちゃったのか。
 あたしはおそるおそる咲綾の体を抱きしめる。よかった……咲綾、生きてる。さりげなく手を背後に回して、血の感覚がないかを確かめたけど、もちろんそんなものはどこにもなかった。

「ごめんね、ちょっと、思い出しびっくりしちゃって」
「なにそれ……」

 咲綾は呆れたみたいに体の力を抜く。

「ね、ここみ、今日も学校休んだ方がいいんじゃない? 本当、おかしいよ、最近」
「……うん」

 心配そうな咲綾の表情に、あたしはなんだか涙が出そうになる。
 さっきのは、なんだったんだろう。夢? でも、そんなわけない。あたし、狐の窓を使ったんだもん。だったらそこに見えるのは……。
 あたしは背筋がすうっと冷えていくのを感じた。

「咲綾、あたし、今日学校休む」
「うん、それがいいと思う。みんなには言っておくから」
「ありがとう……ごめんね」
「ううん。気をつけて帰ってね」

 そう言って、あたしを気にしながら咲綾は学校へと向かう。
 少しだけ苦しくなってきた息を、あたしは必死でなだめた。昭くんに教えてもらった呼吸。ゆっくり吸って、ゆっくり吐く、をくり返す。

 落ち着いてきたあたしは、カバンをぐっと握りなおして、学校とは反対の方へ体を向ける。

 狐の窓から視た光景が、何を意味するかなんて、正直まったくわからない。でも、咲綾から感じたあのイヤな予感。そしてあの赤い光の後に視た光景。

 きっと、咲綾は今……危険なんだ。


  ◆◆◆


「――なるほどね」

 あらかた話を聞いた透くんは、あごの前で手を組んでしばらく考え、ぽつりと言葉を落とした。
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