視えるだけじゃイヤなんです!
 あの後すぐに、あたしは倉橋家のチャイムを押した。

 透くんはあたしを見て目を丸くし、やっぱりやわらかく笑って「どうぞ、上がって」と言ってくれた。

 昨日通された客間にもう一度上がりこむ。

「ごめんね、今日は昭も兄さんもいないんだ。だから、僕だけなんだけど」

 そう言って、透くんはまゆを下げてほほ笑んだ。今日の透くんは和服じゃなくて洋服だ。白い半そでシャツにベージュのチノパン。手にはいつもの手袋をつけていた。

「なにか、相談ごと? 僕でよければ話を聞くよ」
「透くん……」

 涙が出ないように話すのはちょっと大変だったけど、あたしは透くんにさっき見た光景をそのまま伝える。
 イヤな予感がしたこと。狐の窓を使ったこと。そして咲綾の背中に視えた血と……そのあとに起こったことも全部。

「なるほど」
 透くんは険しい顔をしていた。
「ここみちゃん。ちょっと、厳しい話をするよ」
「え……?」

「ここみちゃんが視たのは未来視……かもしれない」

 未来視? あたしは首をひねった。
「うん。つまり、これからその咲綾ちゃんって子に起こる未来を、視た、ということ」
 あたしはすっと血の気が下がっていくのを感じた。
「ウソ、じゃあ咲綾は……!?」
「そして、もっと言いづらいことなんだけど」

 透くんはす、とあたしから目を外した。

「未来視したものは、必ず『そう』なる。基本的に、変えることはできない。決定している未来なんだ」

 あたしは言葉が出なかった。
 じゃあ、咲綾……咲綾は、あたしが視たとおりに死んじゃうってこと!?

「――ここみちゃん」
 透くんがあたしを見つめた。
「その咲綾ちゃんは、ここみちゃんにとって大切な人なんだね」

 あたしは震えながらうなずく。咲綾はあたしの親友だもん。ずっと仲良しで、ずっと一緒だった。大切、なんて言葉じゃとても言い表せないくらい、大好きな友だちだ。

「じゃ、行こうか」
 そう言うと、おもむろに透くんは立ち上がった。
「行く?」
「そう。その咲綾ちゃんって子に会ってみよう。僕が視ることで、なにか変わるかもしれない」
「ほ、ほんとに!?」
「うん、やれることをやってみよう。ここみちゃんの大切な人だもんね」

 にこっと笑った透くんの顔を見て、あたしはまた涙が出そうになった。

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