視えるだけじゃイヤなんです!
「で、透の見立ては?」
「うん。あの子の背中に、真っ黒い影が視えた。ちょっと笑えないくらいヤバそうな影だったな」
「影、か」
「こう、背中にのしかかるみたいに張りついているんだ。しかも……僕が視ていることにも気づいてた。じろじろ視たらヤバい気がして、すぐに目をそらしたけど」

 あたしは背筋がぞっと寒くなる。

「お前は?」
 急に話をふられて、あたしは首を傾げた。
「未来視か、予知かはまだわからないが。昨日は霊視や千里眼を散々しただろう。なにか気になることはあったか?」

 あらためて問われて、あたしは思い出す。
「あ」
 二人が身を乗り出した。

「咲綾の背中についていた血……赤かった」
「赤?」
「うん。昨日の女の子を視たとき、血は白黒に視えてたんだ。だから、なんで今回は血が赤く見えるんだろうって。覚さんにヘビを視せてもらったときも色がついてたけど……」

 透くんが、ハッと目を見開いた。
「もしかしたら……」
「へ?」
「つまり、兄さんのヘビも、咲綾ちゃんについてた血も、色つきで視たってことでしょ?」
「う、うん」
「そしたら、ここみちゃんが色つきで視えるものは……神さまかもしれない」

 あたしはハッとした。
 すっかり忘れてたけど、最初に神社で狐の窓をのぞいたときも、女の人が金色に光ってた。あれもそういうことだったんだ。

「じゃあ、あの真っ赤な血はなにかの神さまってこと……?」
「やっかいだな」
 昭くんが眉間にしわをよせる。
「そうなの……?」
「ああ。お前の友だちに憑いているのが霊じゃなくて神だというなら、一筋縄じゃいかない」
 透くんも真剣な顔をしている。
「そうだね。しかもそれがここみちゃんには血に視えてるんだもの。危険かもしれないね」
「なんにしても、透の言う通り、この交通事故で終わりじゃない。一度ちゃんと視に行かないとまずいだろう」

 あたしはなんだか涙が出そうだった。

「……助けてくれるの?」
「わからん。でも、まだお前の友だちは死んでない。お前が視たのが予知であれば、俺たちが関わることで結末が変わるかもしれない」

 そう言って、昭くんはあたしの肩にぽん、と手を置いた。

「できる限りのことをやろう。それでいいか?」
 あたしはぐしゃぐしゃの感情のまま、うなずいた。その拍子に涙がぼろっとこぼれる。

 あたし、この力、持っててよかった。
 だってもしあのとき、狐の窓をのぞいていなかったら、咲綾を助けるなんて選択はできなかったはずだから。

「それじゃ、今日は無理だろうから、明日。咲綾ちゃんのお見舞いに行くっていう形で、もう一度会いに行こうか」

 透くんがにっこり笑う。

「透、お前はダメだ」
「ううん、昭、今回は一緒に行かせてもらうよ。もし本当に神さまを相手にしなきゃならないなら、僕がいたほうが都合いいでしょ」
「しかし」
「僕が行かないと、ここみちゃんが危険になることくらいわかってるよね? 今回は折れない。僕も行く」

 あたしはごくり、とつばを飲みこんだ。昨日の、神社に行くときとは全然ちがう。二人からただよう緊張感。そっか、神さまを相手にするのってそんなに危険なんだ……。
 昭くんは迷ったみたいだった。透くんは一歩も引かないという気迫で、昭くんをじっと見ている。

「わかった。――ぜったい無理するなよ」
「うん、了解!」

 ほっと息をついて、透くんはうれしそうに笑った。


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