視えるだけじゃイヤなんです!
翌日、昨日の事件のせいで学校は休校。これ幸いとばかりに、あたしたちは病院の受付にいた。
昭くんは今日もギターケースを背負っている。当然、中身は刀だ。透くんは手ぶらだけど、やっぱりしっかりと手袋をはめていた。
あたしは迷ったけど、お見舞い用の小さな花束を持っていくことにした。
咲綾のお母さんは、お見舞いをこころよくオッケーしてくれた。
「トラックの事故のわりに、咲綾のケガ、大きくなかったの。ここみちゃんがお見舞いに来てくれたらきっと咲綾も喜ぶわ」
受付の人に咲綾の名前と病室の番号を伝えると、すんなりと場所を教えてもらえる。咲綾のお母さんがあらかじめ電話をしておいてくれたみたいだった。
「咲綾ちゃん、一人部屋なんだ」
「そうみたい。ほかの病室が満室だった、って咲綾のお母さんが」
「それは好都合だな。じゃあ、行くか」
階段をのぼって、咲綾の部屋の前につく。
「咲綾、入るよ」
声をかけて、ドアをそっと開ける。ベッドの上に咲綾が体を横たえていた。眠っているようで、返事はない。
頭に巻かれた白い包帯と、腕のギブスが痛々しかった。
あたしは透くんと昭くんに目配せすると、三人一緒に病室の中に入り、ドアを閉める。音をなるべく立てないようにそっと咲綾に近づいた。
顔をのぞきこもうとしたときだった。咲綾が、パチッと目を開けた。
「うわっ!」
あたしは思わず声を挙げる。
「ここみちゃん?」
咲綾はぎこちなくベッドの上に体を起こすと、小首をかしげてあたしを見る。
「ちょっと咲綾、いきなり目、開けないでよ! びっくりした……」
「あはは」
咲綾はペロッと舌を出す。
「ここみちゃん、どうしたの?」
「あ、うん、お見舞いにね。これ、お花」
ベッドサイドの机の上に花を置くと、あたしは咲綾に向き直った。咲綾はあたしと目が合うと、ニコッとほほえんだ。
「あ、あのね」
あたしはさっきからだんまりを決めて、壁際に立っていた二人を紹介する。
「昭く……倉橋センパイは知ってるよね。で、倉橋センパイの兄弟の、透くん。咲綾のお見舞いにいっしょに来てくれたんだよ」
咲綾は二人をチラッと見ると、首をことっと落として会釈した。
……あたしはなんだか違和感を覚えた。
咲綾、なんだかいつもと違う。だって、咲綾、昭くんのファンなんだよね。
そのひと本人がお見舞いに来ているのに、なんでこんなに普通でいられるんだろう。
「――咲綾?」
「どうしたの?」
「咲綾、だよね?」
「ここみちゃん」
あたしの頭の中で、またあの赤い光がチリッと弾ける。
なんか、ちがう。咲綾の顔だし、咲綾の声。いつもの咲綾のはずなのに、あたし、全然知らない人に話しかけられているみたい。
あたしはベッドから一歩下がった。そのまま、もう一歩、さらにもう二歩。
「ここみちゃん? どうしたの?」
足がふるえ始めた。なんでだろう、あたし、今すごく怖い。
昭くんが、ギターケースを背中から降ろした。
透くんが、壁際から一歩前に足をすすめた。
「ここみちゃん?」
「――咲綾じゃない」
「どうしたの?」
「あなた、だれ?」
「ここみちゃん?」
あたしは激しく首をふった。咲綾はあたしのこと『ここみちゃん』なんて呼ばない!
「あはは」
あたしはサッと手を組み、咲綾をのぞきこんで――……。
「――なに、これ……」