視えるだけじゃイヤなんです!
 咲綾は目を開けていた。何が起こったのかわからない、という顔をしている。そのまま周りを見渡して、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
「……よかった」
 あたしはつぶやく。
「咲綾……生きてた」

 あとは言葉にならなかった。涙が止まらなくなったあたしをなぐさめるように、透くんが頭をなでてくれた。


  ◆◆◆


 家に帰ると、お母さんが玄関まですっとんできた。
「ここみ! 聞いたわよ、咲綾ちゃんのこと……大変だったわね」
 そっか……誰かから連絡きたんだろうな。

 お母さん、顔が真っ青。

 あたしはなんだかまた涙が出そうで、くつを脱ぐとお母さんにそのままぎゅっと抱きついた。お母さんはだまってあたしの体をなでてくれた。

「話を聞きたいって人が来てるけど、大丈夫? 話せる……?」
 あたしはうなずいた。そっか、直前でお見舞いしてたのがあたしたちだったから……。

 リビングには、知らない男の人と女の人がいた。あたしは直感する。……警察だ。
 二人はあたしにぺこりとおじぎをして、「咲綾ちゃんのこと、教えてくれないかな?」と言ってきた。

 当たりさわりのないことを話す。お見舞いに行ったら、咲綾の様子が変だったこと。とつぜん暴れ出したから、こわくなって逃げてきてしまったこと。
 ちょっとだけウソをついたけど、多分ばれていなかったと思う。

「話してくれてありがとう」
 男の人が優しそうな笑顔でそう言った。
「咲綾ちゃん、ショックなできごとがあったから混乱しちゃっただけだと思うんだ。びっくりしたね」
「これからも咲綾ちゃんと仲良くしてね」
 女の人もそう言って、それじゃあこれで、と席を立つ。

 二人を送るために席を立ったお母さんの背中を見て、あたしはくちびるをかみしめた。

 咲綾は混乱なんかしてない。混乱させられたんだ。あの背中の黒い影に。
 あいつのせいで、咲綾はケガをして……殺されそうになったんだ!

 戻ってきたお母さんに、あたしはまたぎゅっと抱きしめられる。
「明日も学校、お休みになるって。このまま夏休みになっちゃうわね」
「……うん」
「疲れたでしょう。ゆっくり休むのよ」

 そう言って、お母さんはあたしの頭をぐりっとなでた。
 あたしは自分の部屋に戻って、ベッドにバフっと倒れ込むとまくらに顔をうずめた。

 お母さんに言えないことがどんどん増えてく。それがちょっと苦しくて、あたしはやっぱり泣いてしまう。

 あたし……強くなりたい。

 今回はたまたま、咲綾は助かったけど。
 また同じように黒い影が現れたら……?
 あたしの大切な人たちが、黒い影に狙われたら?

「あたし、強くなりたい……」
 視るだけなんてもういやだ……!

 守りたい。強くなって、大切な人たちを守るんだ。



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